赤司とクラスメート

 


「赤司ってさあ、負けたことないんだって?」

放課後、日直の為に一緒に教室に残っていたクラスメートの言葉は、余りにも脈絡がなかった。
しかし、誰かを彷彿とさせつ眠たそうな目が胡乱げに見据えてくるので、それをちらりと一瞥してから。

「まあ、ね。無いよ」
「へえ。なんでも一番だったの?」
「そうだよ。これからもね」
「これからも?」
「頂点以外に、意味なんてないさ」

そう言われて育ってきた。

他人から見れば、嫌みで歪んだ哲学なんだろう。
そう理解する前に、俺はそれが常に当たり前であると身に染み込まされている。

だから、とくに何か考えて言った言葉でもなかった。
だけど、彼女はふうん、と唸って。

「じゃあ失敗とかもしたこと無いの?」
「うん……無いね。俺の記憶には」
「へえ。つまんないね」
「……なに?」

けろりと吐いた言葉に、一瞬耳を疑った。
しかし、今度はもっとハッキリと。

「つまんないねって言ったの」
「……なにが、言いたいのかな、エリンギ」

自分でも珍しいと思った。
彼女の言葉に、わかりやすいほど、苛ついていた。
知ってか知らずか、エリンギはだってさ、と言葉を繋いで。

「人間ってさ、不完全な生き物だよ」
「……ああ、そうだね」
「一回ですんなり上手くいったことより、試行錯誤して失敗しながらやった事の方が沢山頭に残ってる」
「それで?」
「成功勝利ばっかりの赤司の記憶には、一体何が残ってるの?」
「……!」

あっ、終わった、日誌出して帰るね。

何事もなかったかのようにそう言ってエリンギは教室を出て行った。

それから彼女と話すことはなかった。別に親しい間柄でも無かったわけだし。
ただ、最後の言葉がいつまでも、ふとした瞬間に脳裏でよみがえる。

あの問いの答えを、僕は未だに見つけられないで居る。


 
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