菅原と掃除する

 


30日あるのと31日あるのとではやはりなにか違う気がするし、ましてや28日なんてのは大違いで、閏年ならまた一つ猶予があったのかなんて思う。

まるで冗談のようだが、卒業してしまうんだなあ、と感慨に耽る。
思わず鼻がツンとして、じわりと滲んできそうな涙を誤魔化そうと深く息を吸い込み、そして軽口と共に吐き出す。

「あーあ、なぁんで私達がこんなことすんのかねー。どーせなら下級生がやってくれていいのに。教室飾り付けしてくれるんだし?」
「あー、もー、そういう文句はいいから、手伝えよ! 馬鹿!」
「ちょっ、スガ馬鹿とかひどっ」
「ばーかばーか、はいこれ捨ててきて」
「……はあい」

せかせかと忙しなく、なんなら妥協も無く教室を隅から隅までピカピカにしていく菅原に、なめこは更に溜め息が出た。
渡されたゴミを捨てに行けば、ゴミ箱が随分窮屈そうな事に気付く。

「スガー、私ゴミ捨ててくるわー。ついでにゴミ袋貰ってくるね」
「あっ、それなら俺も行く……ってお前、そんなことすんなよ! 女子だろ! 俺がやるから!」

片足をゴミに突っ込んで押さえ込んでいるのを見咎められた。だいたいなんでこんな時期にタイツはいてないんだスカートは短いしなんてブツクサ言われた。お父さんか。だってタイツのあの感触が好きじゃないんだもの。スカートの長さは周りに合わせて何となくかな。口に出して答えなかったが。

結局、ゴミ袋は菅原が持って、言い出した私はついて行くだけになってしまった。
外に出るとびゅうと吹き抜けた風が刺さる。空気はまだまだ冷たかった。

「……あたしはじゃんけんに負けたわけだけどさ」
「ん?」
「菅原は、なんでわざわざ掃除に立候補したのよ?」
「あー……まあそうだなあ」

白い息を吐きながら、私が開けたゴミ捨て場の中にぽーいとゴミ袋を投げ込んでしまう。そんな姿で感心するのもどうかとは思ったが、東峰や澤村と比べると小柄に見える彼も、伊達にスポーツ少年ではなかったようだ。きっちりしっかり、体は作られている。

「やっぱ最後にお世話んなった教室だし、三年間通った学校の一部だしなー」
「うわっなにそれ真面目」
「……なんて、言うわけ無いだろ」
「えっ」

関心半分呆れ半分に相槌を打ったのに、にっといたずらっぽく笑って、清々しい程の前言撤回をした。

「女子がじゃんけんして、エリンギが掃除に残ることになったから、立候補した」
「は?」
「つったら、どーする?」
「え、どうって」
「ちなみに嘘じゃねーべ。こっちがほんと!」

あー、恥ずかしい、なんて微塵も思ってなさそうな声で言う。
なんてことだ。全部全部、菅原が悪い。
教室に戻る足が止まってしまう。
さっきは軽口で誤魔化した涙も、もう誤魔化せそうになかった。

「……っんで、そゆこと、いう……っ」
「えっ、わっ、エリンギ!?」
「そーじっ、やだっ、た……ほんと、さいごだ、って、おもうし、なのに、すが、が、りっこーほ、するし、も、なんで……」

言うことはなんだか支離滅裂で、悪態吐くのは八つ当たりでしかないと思っても止められなかった。
じわじわとカーディガンの袖口に涙を染み込ませる。掃除に勤しんだ後のそれは埃臭かった。

「……あのさ、エリンギ」
「なっ……に」
「卒業って、なにもかもただ終わるだけじゃないよ」
「……?」
「次のことを始めるには、終わらせなきゃいけない物もあるだろ?」

笑って私にハンカチを押し付けた菅原の顔は、多分寒いだけの所為ではなくて、赤かった。



短編強化台詞
「いいから、手伝えよ!馬鹿!」

 
[ 25/34 ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -