花巻が駆けつける
たかくん、たかくん、わたしもうやだよう。
ぐずぐずと涙声の電話は突然で、それだけ言って切れた。
現在時刻はちょうど19時。たった10秒のメッセージ。
返事をする暇も与えて貰えずに、携帯のスピーカーからは通話終了を知らせる電子音が流れていた。
「……あのばか」
携帯と財布だけを羽織ったコートに突っ込んで、家から出てタクシーを拾った。
「なめこ。……なめこ!」
「! たっ、たかく、ん」
案の定、なめこがいたのは、昔よく遊んだ、家から少し離れた公園だった。塾とは逆方向だろーが、ばか。
ぱくぱくと口を小さく開閉させて、間抜けな声でなんで、と呟いた。
両手で包んだ頬は濡れている。
「言ったデショ。いつでもお前のそばに居てあげるよ。居て欲しいんだろ?」
まあ二時間かかったケド、と軽く笑えば、なめこは顔をくしゃくしゃにして、ぎゅうぎゅうとしがみついてきた。
「う、うぅっ、だが、ぐん゙ん゙ん゙……」
「おう。なに」
「だいっ、がく……っお、おちっちゃっ、た、よぅゔゔゔ……かえ゙りたぐない゙い゙ぃ……」
少しランクの高い学校を志願していたのも、そのために勉強に力をいれて努力していたのも知っている。そして今回、それは実らぬ物となってしまったのだ。
よしよし頑張ったな残念だったなお疲れ様、と思い付く限りありったけのありきたりな言葉をかけてやりながら、彼女の背中に回した手で財布を開き、彼女の肩越しに中身を確認。うん、まあ、ギリギリ二人分あるかな。時間、は、うん、まだ大丈夫だろ。最悪タクシー。
「家帰りたくないんだな」
「ゔん゙……っ。いやだ……」
「ん。じゃあ来なさい」
「どこいくの……」
「俺んち。実家じゃねえぞ」
「……は」
「鍋すっか、鍋。お前鍋好きだろ」
「……なにそれ、たかくんのばか」
ずびっと鼻を啜って、真っ赤な顔で腕に絡んでくるような奴の台詞ではないなと笑って。とりあえず、暖かいココアでも買ってやろうと自販機目指して歩き出した。
その中で密やかに落とされた、ありがとうたかくんごめんね、なんて言葉が、どうにも儚げに俺の耳を擽っていった。
[ 24/34 ]