実渕に否定される

 


「あれー? なめこなんか今日雰囲気ちがくない?」
「ふっふー、そう?」

友人の第一声に内心ガッツポーズ。
こてん、こてんと何度か左右に首を傾けて、後。

「……あっ、リップ新色?」
「そうなの! ピンク!」
「可愛いーっ!」
「ありがと!」

気付いてくれた友人とキャッキャと手を取り合って品評会。
新色リップのストロベリーピンク。
今まではあまり強めの色のリップはつけなかったのだけど、パッケージと色の可愛さについつい買ってしまったのだ。

朝一で気付いて褒めて貰えた私はニマニマと上機嫌で自分の席についた。
ちょうど同じくらいのタイミングで隣の机にバッグが置かれたのを見て、顔を上げた。

「おはよっ玲央!」
「あら、なめこちゃんたら随分ご機嫌なのね。おはよう」
「へへー」
「あら……?」

立ったまま、腰を折って顔をずいっと近付けてきた彼に心臓が跳ねる。
好きか嫌いかなんて抜きにしても、美人の至近距離はそれだけで迫力があるのだと察して欲しい。

なに、と声を絞り出したら、不機嫌に顔が歪む。そして、至近距離で。

「……ブス」
「……へ?」
「あ。そう、これね」

かなりショッキングな発言を聞いて固まった私になどお構い無しに。
少し顔が離れてくれたかと思えば、大きな手が顔に添えられて。

「は? むぎょっ!?」

少し乱暴に、親指が唇の上をなぞっていった。

「ちょっ……! せっ、せっかくリップ塗ってたのに!」
「知ってるわよ」
「て、ていうかブスって、ブスって……! 玲央よりブスなのは知ってるけどオブラートとかさあ……!」

いくらなんでも酷い、とぼやきながらリップを塗り直そうと少量唇に乗せると、また同じように親指がそれを拭った。

「なっ、なんなの今日の玲央変!!!!」
「こっちの台詞よ。これ没収ね」
「ちょ、ちょっと!」
「ない方が可愛いもの」
「わけわかんな……え? なに、わけわかんない、え?」
「あらやだ、まだ残ってる」
「ふぐっ!?」

ハンカチらしきもので今度はやや丁寧に拭われて、それが離れていって、彼はようやく満足したように笑った。

「よし、可愛い」
「……は?」
「あんたの顔、ピンクじゃ浮くわよ。どうしてもそのシリーズが使いたいならアプリコットオレンジの方買ってらっしゃい」

私、手洗ってくるわ、と彼は教室を出て行った。
勝手に色々やってくれてその言い草。なんて自由なんだ。

彼に対して言いたいことは色々あるが、とりあえず。
今日の帰りにアプリコットオレンジのリップを買って、明日見せてみようと思う。


 
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