花巻に夜這いする

 


昔からうちにあった合い鍵でこっそり屋内に侵入、もぞもぞと布団に潜り込んだ。
ぴとりと冷気を纏った身体に、ビクッと跳ねたかと思うとぐるんとこちらを向いた。

「おっ……まえ、なにしてんの。なんでいんの。てか冷たいんですケド」
「夜這いに来ました。たかくんは忘れてるかも知れないけどうちには花巻家の合い鍵がありますのでそれで入ってきました。外から入ってきたから冷たいのは仕方ないよね」

へら、と笑って言えば、暗闇の中でも深い深い溜め息をつかれたのがわかった。

斜向かいの花巻家長男のたかくん、もとい貴大くんは明日……否、日付的にはもう今日かも。とにかく朝がくれば、彼はスーツを着て、成人式に行く。
県外で一人暮らしをしている彼が今ここに居るのはその為に帰ってきたからだ。
もう、明日の夜には、一人暮らしのアパートに戻ってしまうと聞いてしまっては、どうにかして彼とコンタクトが取りたかった。

「久しぶりだね」
「こんな真夜中に布団の中で再会したくなかったケドね」
「ひどーい。せっかく忍んで会いに来たのに!」
「忍ばないでいいから白昼堂々会いに来なさい」

ぐに、と鼻を摘まれていたいよ、とその手をべちべち叩く。
そんな幼稚なやり取りが懐かしくて、じわっと目頭が熱くなる。

「も、いた……ひ、からぁ」
「えっ、そんな強くしてないデショ」
「ふ、うううぅ……」
「なに、なめこ? お前泣いてるの?」
「ないてないぃ……」
「泣いてるじゃん……」

布団の中で温もった大きな手が、冷えていた私の頬を包んで涙を拭う。
どうした、と囁くように問われた声に、侵入前に一人で固めた決意がぼろぼろ崩れていく。

「たかくん行っちゃやだあぁ……たかくん居ないの寂しいぃ……」
「……なにそれ。そんなことか」
「そっ、そんな、ことって」
「そんなことなら泣く理由なんて無いデショ」

涙ですっかり滲んだ視界に、馴れた暗闇の中でふっと笑われた気がした。

「俺はいつでもお前の居るところに行くからさ」

俺も明日早いし、もう寝なさい、と言って頭まで布団を被せられる。

ぎゅうと抱き締められて顔を胸元に押し付け、嘘吐き、とボヤいた。そんなの、現実問題無理だって事くらい私にも判ってるよ。

だけど、それでもそんな風に言ってくれたのが嬉しかったから、今だけ言うことをきいて目を閉じた。



短編強化台詞
「泣く理由なんてないデショ、俺はいつでもお前の居るところに行くからさ」

 
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