及川とダッフルコート

 


「うっわあお前マジでふざけろよ絶対許さねえ」
「なにさいきなり辛辣すぎでしょ」

今日は久々の休みで、新しいコートを着て、もの凄く上機嫌でちょっとお洒落なカフェにでもなんて気持ちでいつもは行かない店に入ってみたりした。
そしたら満席なんです、と可愛いお姉さんに言われてしまったのだけど、優雅にカップを傾けるクラスメートの姿を見つけた俺はついている。
そして、そのクラスメートがそこそこ仲の良い相手だという事実も、ついている。

連れが先に来てるんです、と言って笑って、真っ直ぐ彼女の席に歩いた。
そして、相席いーい、と訊ねたら、どーぞと返されたので向かいの椅子を引いたのだけど。

ちらりと此方に目線を向けたとたん、冒頭のセリフである。

「チッ、この腐れイケメンが」
「貶すか褒めるかどっちかにしてよ」
「この腐れ野郎」
「あ、うん貶す方を取るんだね知ってたけど」

全く、なんで急にこんな機嫌悪いかなと心の中でボヤきながら、御注文はお決まりですか、と言ったお姉さんにホットのカフェラテを注文した。

「マジありえない。最悪」
「だから、なんなのさ急に」
「……私先週初めての給料日だったのよ」
「あぁ、そういや先月バイト始めたんだよね。おめでとう」
「ありがとう。そんで、初めてのバイト代で奮発して自分にご褒美を買ってあげたの」
「ふーん?」
「…………なにダッフルコートとか可愛らしいもん着てんだよこの腐れイケメン」
「……えっもしかしてエリンギ」
「おんなじの着てきてんの!! 今日!! 及川こんな店来ないじゃんか普段!」

なんで今日、何でこの時間に、くそが、なんて最終的には口汚く俺をぶちぶちと罵りながら机に突っ伏した。
お洒落な店のお洒落な椅子は、背もたれが高い。
そこにかけられたダッフルコートは、確かに今自分が着ているものによく似ていた。彼女の言い分はよくわかった。わかった、が。

「これ男物だよエリンギ」
「及川馬鹿なの? 私が着てるのは女物だよ。ここのブランドは女物も男物も出してるんだよ。でもデザインはユニセックスなの! 同じなの!」

それが好きで着てるのに、まじ有り得ないし、と理不尽な罵倒を繰り返し続けるエリンギ。
とりあえず今からカフェラテを飲むので、問題のダッフルコートは脱いで、彼女と同じように椅子の背にかけた。

そして、いつもと同じ調子で。

「及川さんみたいなイケメンとペアルック出来るんだから喜びなよね〜。まるでカップルみたいで嬉しいデショ」

と笑いながらカップを傾けてみたのだけど。

「はっ、はぁ!? ばっ、かじゃないの!! 絶対有り得ないし、そんなの!!」
「……は?」

冗談は顔だけにしてよ、なんて失礼極まりないセリフを吐いた彼女の顔は真っ赤だ。
予想した通りの台詞ではあったけど、こっちはてっきりいつものように、鼻で笑うというオプションを予想していただけに驚いてしまったが。

「……っぷ」
「なに!」
「あっはははは! なにそれ、なにそれエリンギ!」
「うざっ、及川うざい!」
「はー、エリンギ、そんな可愛い反応出来るんじゃん」
「なっ」

真っ赤な顔で、再び、俺に悪態をつきながら突っ伏したエリンギに笑いながらカップを傾けた。

やっぱり、今日の俺はついている。


 
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