及川と体育館裏

 


ノートの切れ端みたいな紙に書かれた「放課後体育館裏に来て下さい」の文字に、激しく面倒臭さを感じながら従った。
10分くらいなら待ってやろう、と思いながら。

しかし、向かった先には思わぬ先客。
校内でダントツの人気者、及川徹が居た。

こいつ告白待ちかな気まずいなとちょっと離れようとした、時。

「まっ、待ってエリンギさん!」
「は?」
「どこいくの!?」
「え、いや、及川くんの邪魔にならないところ……?」
「ならない! ならないからこっち来てよ!」
「ええ……でも」
「俺だから!」
「え、ごめん意味わかんない」
「あのね、エリンギさん、ここに呼んだの、俺なの」

あのね、なんて言いやがった……なんてどうでもいいことを思いつつ脳内を整理する。
私の靴箱に入っていたノートの切れ端みたいな紙に書いてあった、体育館裏に来いと言うメッセージ。向かった先に居たのは校内一のイケメン。で、しかもこいつが言うには私を呼び出したのは彼……ほう。

「じゃあ及川くん。私、早く帰りたいので要件を簡潔にお願いしていいかな」
「えっ……と。あー、俺ね」
「うん」
「エリンギさん、が、好きです! 俺とお付き合いしてください!」
「えっ嫌だ」
「あり……えっ嫌だ!?」
「うん、嫌だ」

ありがとう、なんて口走りかけていたっぽい及川は、まさしく驚愕という表情でがっしり肩を掴んできて。

「俺ほどのイケメンふるなんてなに考えてんの!?」

なに言ってんだこいつ。

「なに言ってんだこいつ」
「ひどっ!」
「あっごめん本音がつい」
「本音!?」
「むしろそれ以外のなにに聞こえたの」

エリンギさん酷い……なんて崩れ落ちたイケメンを前にしてもあまり罪悪感が刺激されないのは多分さっきの衝撃発言のせいだ。
いつもキラキラニコニコしていたみんなのイケメン及川くんがこれだ。
なにからなにまで予想外もいいとこである。
いや、まあ、お調子者っぽいとこは岩泉と居るのを見ればわかるけども。

とりあえず及川に対して罪悪感は一ミリもないが。ちょっと好奇心は湧いた。

「及川くん」
「……なあに」
「携帯は?」
「? あるけど……」
「あ、まだガラケー。私もだよ。えーと、及川くんの赤外線ココね。じゃあ私のここだからはい受信してね」
「えっ、あっ、ハイ」
「送信完了。じゃあ及川くん、私の個人情報は悪用しないよーに。また明日ね」

家に帰った頃に届いたやたらテンションの高いメールに、アドレスはちょっとはやまったかなと思ってしまった。



短編強化台詞
「俺ほどのイケメンふるなんて、何考えてんの!?」

 
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