東峰と最初の日

 


ごーん。

最後、108回目の除夜の鐘がなったのを聞いた。テレビは私のわがままでつけていなかったから、部屋の中は秒針の音だけが変わらずにちくたくと動いているだけ。

私の隣にきちんと正座する男は、まるでここが自分の部屋だと忘れているみたいに縮こまっている。全然小さくないけど。

「あーさひ」
「なっ、なに!? 寝てないよ!?」
「なにそれ知ってるし。2014年だよ。あけましておめでとう」
「う、うん。おめでとう。こ、今年も、よろしくな」

へにゃりと笑った彼になんともむず痒い気分になる。
ちょっとムカつくから、ちょっとだけからかおう。

「そう言えばさ、旭面白いTシャツ持ってたよね」
「へ?」
「"謹賀新年"」
「! あっ、あれは!」
「今日着たらいいんじゃない? ばっちりじゃん」
「い、いやだよ……」

なよなよへにょへにょ。
そんなだから澤村にひげチョコとか言われちゃうんだよ。
言ったら新年早々落ち込ませちゃうだろうから言わないけど。

「ねー旭」
「ん?」
「誕生日おめでとう」
「うん、ありがとう」

ふにゃ、と気の抜けた笑み。
こんなふにゃふにゃした奴がヤのつくお兄さんに間違われちゃうんだから世の中は無情だ。まあ彼の望み通り中身と反してワイルドに見られているのかも知れない。良いか悪いかはさておき。

「旭、今日は旭の誕生日だけどさ」
「うん」
「私旭に貰いたいものあるんだよね」
「え、なに?」

何が欲しいの、なんて平然と聞いてくるから、こいつは将来しょうもないことで苦労するんだろうなあと思う。
誕生日の人間にねだんなよくらい言えばいいのに。
そう思いながらも私は強請るのだけど。

「私、東峰が欲しいなあ」
「……ん? え? どういう」
「東峰っていう名字が欲しいなあ!」
「へっ……!!」

わざと少し声を張って言ったら、変に裏がえった声を上げて口をぱくぱくさせて。
見事に顔を真っ赤にしたあとで、近くのクッションを手繰り寄せて顔を埋めた。

「養えるくらいになるまで待って下さい……」
「仕方ないな、いいよ。じゃあ予約ね」

まあ、プレゼントは私です的なノリで。


 
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