影山とやり直す

 


中学の頃。私には人生最初の彼氏と言うものが居た。
とんでもないコミュ障で、ぶっきらぼうで不器用で、天然な上にバカだった。
日直とか、係の仕事とか、委員会とか。なぜか妙に私は彼と関わる機会が多くて。
なんとなく憎めない奴なんだな、とも理解した。
そんな折りに、なんと私は彼に告白された。

好きだとかそう言うことを言われたわけじゃない。
ただ、なんとなく、だ。
なんとなく、お前が他の男子と話しているのを見ると、すげームカつく。ぼそりと、私が日誌を書くのを頬杖ついて眺めながら言ったのだ。
まるで告白みたいだね、なんて私が茶化して笑ったら、間を置いて、悪いかよ、なんて言いやがったのだ。

妙に冷静なあの時の私は、じゃあ付き合う? なんて言ってしまった。
あの時、茶化して笑うにも別の言葉を選んでいたら。あの時、あんなセリフを言わなければ。……影山が、頷かなければ。

私達は高校でも、もっとうまくやれていたのかもしれない。なにせ、偶然とはいえ同じ高校を志望して、進学したのだから。

教室の出入り口で、日向くんと喋っているあいつを見て溜め息をついた。時折聞こえる日向くんの半ば悲鳴じみたツッコミに、あいつはやっぱり天然なんだと思いながら。

卒業する頃。ざくざくと雪を踏んで歩きながら、私は、からからの喉で影山に別れを切り出した。
始まりと同じように頷く、一瞬前。酷く傷つけてしまったような顔をさせたのが、私の中にずっとつかえているのだけど。

はあ、と溜め息をつくと。

「エリンギ、さん?」
「! 日向くん、なに? どしたの?」

さっきまで影山と喋ってたじゃん、と言いかけて噤んだ。
私のそんな様子に気付く事もないまま少々焦った様子で、あのさ、と。

「あっ、あいつ、その、影山が、君のこと、呼んでくれって」

出入り口を見た。いつもの険しい顔で、真っ直ぐに私を見ていた。つられて思わず眉間に皺が寄る。ひぃ、と日向の情け無い悲鳴と、じゃあそう言うことだから、という早口の言葉を聞きながら踏み出す。

「……なあに」
「……話、あんだけど」
「うん。だから、なにかな」
「……来い」

有無を言わさずぐいぐいと引かれるままについていけば、廊下の端っこ、あんまり人の来ないところ。
足を止めてくる、と振り向いた。少し、影山が怖かった。

「……エリンギ」
「なに」
「お前に、一個だけ訊きたいことがあった」
「だから、なに?」
「……俺の事、嫌いか」

狡いと思う。なんだその質問。
嫌いかってお前。なんなんだ。嫌い、だったら。嫌いだったら、こんなに悩んだり、何かがつっかえてたりなんか。

「嫌い、じゃないよ」
「……でも」

好きでもないんだな、と。

諦めたような声で小さく呟くから。
なんかもう目頭が熱くなってしまって、振り払うように首を横に振った。

「影山がほんとに私のことが好きなのかわからなかった。一回も言ってくれた事無かったし、付き合う前より、つまらなそうな顔してる気がして、あんなこと、言わなきゃよかったって思って、なのに、なのにあんたが、あんな顔、するから」
「え、ちょ、エリンギ」

堰を切って溢れたものは止まらなかった。なにこれ。なんだこれ。馬鹿みたい。
これじゃあ、まるで。

「お、れは」
「……っ」
「人に、好かれるタイプじゃねえし。むしろ、あんま好かれないタイプだし。俺がつまんない、っていうか、エリンギにつまんなそうな顔させてんのも、わかってたけど」

影山は馬鹿だ。馬鹿の癖に、一生懸命言葉なんか探しちゃって。
ああ、そうか。私は多分。

「……別れる、って言われたのは。すげー嫌だった」
「……私、だって、いやだった」

もっと早く、聞きたかった。

不器用なのは影山だけじゃなかったみたいだ。

「かげやま」
「……ん」
「私とお付き合いしてみませんか」
「……おう」

お互いの馬鹿みたいに震えた声が可笑しくて、少し笑った。


 
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