本当にあった怖い話




進路希望調査面談、と言う名の自習時間。
他クラスへの行き来も騒がなければ黙認されたこの時間の三年五組。エリンギと岩泉の机付近に、いつものメンツは集結していた。
そして、エリンギに面談の順番が来て不在になった今、松川がボソリと呟いた。

「エリンギって、怖いよな」
「…………そうだね?」
「えっ、なんで及川が疑問系なの。俺一番お前が同意してくれると思ってた」

普段、一番遊ばれている、もとい、被害を受けている及川である。が、そんな及川の反応は松川の予想に反し、エリンギの置いていったブランケットを勝手に拝借しながら、なんとか頷いただけだった。

「いやー……確かに厄介ではあるけどさ、怖いっていうとまたちょっと違うじゃない?」
「マジかー……」
「なにが怖かったんだよ?」
「これ見て」

訝しげに訊ねた岩泉に、携帯を操作して見せる。受け取った岩泉の両隣から及川と花巻も覗き込むと、そこには街を歩く女子の後ろ姿の写真が表示されていた。

「それ、エリンギなんだよ」
「うっそだァ」
「マジ。だから写真撮ったんだもん俺」
「マジか……」

松川の言葉に、また三人は改めて被写体になってる後ろ姿の女子をまじまじと見た。
そして、花巻が頷いて。

「松川の言いたいことはわかった。わかる。ってか、俺のせいだね多分」

と、意味深なことを言いつつまた彼も携帯をいじり、一枚の写真を表示して机に置いた。
それを岩泉、及川が覗き込んだのを確認して。

態とらしいくらい、ゆっくりと左へスワイプさせた。

「あ!?」
「ぅえっ!?」
「つまり松川が言ってたのはこういうことだよ」
「そういうこと」

"そういうこと"とは。

花巻が見せた二枚の写真も、この話の流れから察するに、当然エリンギであった。
1枚目は、松川のと同じく後ろ姿。そしてスワイプして見せられた二枚目は、振り向きざま、四人のよく知る彼女の姿。

ところで、二人の見せた写真が本当にただの後ろ姿ならば、ここまで過剰な反応は見せない。なにより、松川だって「怖いよな」なんて言葉で話を始めたりはしないはずである。

原因は、それぞれがよく知る彼女の性格。そして、二枚の後ろ姿のファッションのギャップにあった。
松川の撮った写真はいわゆる「フェミニン」な、ニットにスカート、シルエットの丸いショルダーバックなんて装い。だが、花巻が見せた、"確かにエリンギである"という確証のある写真はシャツにジャケット、スキニーパンツにクラッチバッグ。男性的な装いのいわゆる「マニッシュ」だった。

俺のせい、とは、つまり。松川は先に花巻の撮った写真のファッションを知っていたからである。まさか、エリンギがこれほど雰囲気が変わろうとは思わなかったのだ。

そして同じことを思っただろう及川は、うへえ、なんて言ってから、ハッとして松川を見た。

「まっつん……まさか」
「……そうだよ。そのまさかだよ」
「ナンパし」
「てない。それはしてない。お前じゃあるまいし」
「チョット」

驚愕の表情で言いだした及川のセリフを食い気味に否定してから(白けた顔で及川を見るのを忘れず)。

「……ただちょっと好みだった……エリンギにそんなこと思ったとかショックデカい……」
「わかる。わかるよ松。女って怖いよな。俺もびっくりした」

よよよ、なんて態とらしく顔を両手で覆う松川に花巻が芝居がかった態度で肩を組む。

学外でエリンギに遭遇した2人茶番をしり目に、岩泉は二つの写真を並べてまじまじと見つめた。

「どうしたの岩ちゃん。岩ちゃんもどっちか好みなの?」
「いや全然。あいつだってわかると無理だな」
「ああ、そう……」
「何見てんのあんたら?」
「!? エリンギちゃ」
「おうお疲れ」
「ん? なんだ彼女か?」

当然。戻ってきたエリンギが岩泉、及川両名の間からずいっと顔を出した。
そして、軽口を叩きながら、机に並べられた二つの画面を見る、と。

「あ゙っ!? これあたしじゃん!  花巻のは知ってたけど……松川かこれこのケータイ!」
「おう」
「おまっ、なにが"おう"だよ盗み撮りしてんじゃないよ」
「えっ、じゃあやっぱりこれエリンギちゃんなの」
「? そうだけど」

花巻のは前に一緒に遊んだときのやつだけど、松川のはたぶんこの前中学の友達と遊んだやつだわ、いつの間に撮りやがったんだ。
なんて、ぼやくエリンギを四人はまじまじと見た。
頭のてっぺんから、それぞれ見える範囲で下まで行って、また顔に戻る。

「ん? なに?」

訝しげに眉間にしわを寄せて、両手にいつかの自分の写真が映るスマホを持ち、首を傾げる。
四人がよく知る、学校向けの最低限なメイクに、馴染みの制服、見知った相手に訝しげな視線を送る、決していいとは言えない目付き。

「「「「はあ……」」」」
「なんなんだよ喧嘩売ってんのか???」

女とは、かくも化ける生き物なのだ。

なんとも身近な思ってもみなかった人物から、それを学んだ四人だった。



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