G級クエスト
「今日は〜、実は相談があって集まってもらったわけよ」
「へえ。珍しいね。いいぜ、どこよ?」
「たまにはお前に付き合ってやるのも悪くないのだよ。さっさと貼ってこい」
「いや狩りの話じゃないからな???」
画面内、酒場でステップを踏みながらエリンギはジト目で親友たちを見た。
某月某日、大学生になったオタク達は久々に3人だけで某所カラオケの一室に集まっていた。
現在、カラオケの音は付いておらず、代わりにそれぞれの持つゲーム機からモンスターの咆哮がする。
冒頭のやり取りの後、結局、エリンギがクエストを受注したためである。
それぞれに武器を振り回しながら、まだまだ余裕の表情で話を続けた。
「私今から結構深刻に真面目な話するからよく聞けよ? って緑間どこ行くのそっちじゃない逆逆」
「ん? こっちじゃなかったか?」
「違うよ真ちゃん寝床一番奥。で、なに?」
「そうそうそのエリアな。……いやさ」
ゲームの話を挟む程度の"深刻に真面目な話"とはどの程度か測りかねるが、とりあえず緑間と高尾はモンスターにダメージを与えながらも耳を傾ける。
そして同じくモンスターにダメージを与え続けるエリンギの口から放たれたのは。
「そろそろ学校に着てく服が無いなって思っててさ……」
だった。
「…………イエーイ! 真ちゃんナイス爆弾!!」
「当然なのだよGをナメるな」
双方、やっぱたいしたことなかったな、と内心思いながら華麗にスルーをキメた。
が、もちろんエリンギもその程度でメゲるような性格でもなく。
「おい。おい! 真面目に聞いてんだぞこっちは!!」
「なめこは一回"真面目"って言葉辞書で引くべき」
「面倒だから聞いてやるのだよ。なんだ唐突に」
「大学生になってから毎日私服なもんでさ、ずっと同じ服ローテしてんのよね……」
「あ〜〜……まあ女子はな〜気になるよね」
「私はもう同パターンでも気にしないんだけどそろそろゼミの子に気付かれそうでね」
女子の世界はシビアだからさ……なんてボヤきながら、モンスターにトドメをさした。
だが、実際エリンギの欲しかった素材がエリンギの手元には出なかったらしくため息と舌打ちが重なる。ハンターの世界もなかなかシビアである。
「ちなみにさ、なめこはそれ俺たちに相談してどうしたいの?」
「なんかオススメの店ない? 安くてそこそこいいやつ」
「あ、意外とまともだった……」
「ねだるとでも思ってたのかこのヤロー」
「ごめんて」
そうだな〜〜なんて二人で考え始めて、しばし。
「……G◯」
「……ユニ◯ロ」
「ごめん」
それぞれがひりだした単語に「殆ど答え一つしかないようなもんじゃねえか」、という本音は飲み込んだ。
「あとG◯Pとか……」
「高尾お前安くてってとこ聞いてた? 大学生にとって安いだよ!? しま◯らとかそういうレベルよ!?」
「ごめんて!! 俺もそんな頻繁には行って無いからね!?」
「…………」
「ギャアアアやめてやめて悪気は無かった!!」
テーブルを乗り越えて高尾に掴みかかるエリンギとそれを必死に食い止める高尾の所為で室内はガタガタと一気に騒がしくなる。
が、それに対して緑間が1人静かに黙り、そして、やはり静かに顔を2人に向けた。
「……G◯P #とは」
瞬間、ピタリと2人は襲い掛かるのも悲鳴をあげるのもやめて緑間を凝視した。
「……シンタロサァン」
「やめろ!!!!! 某ハムスター風に呼ぶな!!!!!」
「ちょっwwwwwwwwネタが懐かしすぎでしょwwwwwwww」
「今度一緒に服買いに行こうねシンタロサァン……」
「行く、行くがその呼び方はやめろ!!!!」
「行くには行くんだなwwww俺も行くwwwwwwww」
鼻にかかった声で緑間を弄るエリンギに、ゲラゲラと笑い転げる高尾。おかげで今度は緑間とエリンギが半ば取っ組み合いを始めてしまった。
高尾はそこからなんとか離れつつ、スマホのムービーを起動させる。
高校を卒業してからと言うもの、お互いそれなりに忙しく、中々三人揃えなかったが。
集まってみれば変わらないもんだな、と。
「シンタロサァンwwwwwwww」
「こンのG級モンスター! リアルハントしてやるのだよ!!」
「望むところだ強制帰還させてやんよ!!」
狭いカラオケの一室でリアルモンスターのリアルハントを始めた二人をムービーに収めつつ感じていた。
……なお、こののち30秒後には高尾も当然巻き込まれるのだが。
それはまた別の話。
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