その2




1年の6月。最初の中間テストの結果で上位が貼り出されていて、朝のHRで担任がにこにこと嬉しそうにこのクラスの子が首席でしたと話していたのを未だに覚えている。

なぜなら、その学年首席がそれ以後3年間、揺るぐことなくそこに居座り続けたことと、なによりもその時担任に名指しされてはにかんでいた笑顔が、その後に見た本性とあまりにもかけ離れていた所為だ。
彼女……エリンギなめこは、常に満点を叩きだすので、さしもの先生達も周囲も、誰もがカンニングを疑ったものである。
しかし後々聞いた話によると、呼び出されて各教科担当から抜き打ちで出された問題にもさらりと答えて見せたと言うのだから、つまりはそういうやつだった。

面倒くさそうな表情を隠さなくなってきたのは、一月ほど経った1学期の期末時点からだった。

続々配布される試験範囲と提出課題のプリントを手に深々とため息をついて、誰もが口々に課題の多さに文句を言う中。

「ほんとめんどくさい。授業だけ聞いてれば分かるのにわざわざこんな無駄な量復習するの? 時間の無駄じゃん」

と、たったそれだけの発言で、少なくとも、彼女以外で成績上位にしがみ付いている何人かを一気に敵に回した。それでも彼女は、常に頂に君臨していた。

見合った実力を持っているのだから、単純に自信家で面白い子だなと思っていた。席が近い時はわからないことを質問すれば教えてくれたし、クラスメートと言うだけで先生より質問するのが楽だったし。
そんなある日。

「そんな必死こいて勉強してどうすんの? 出来ないことは諦めたらいいのに。やんなくたって及川はそれなりでしょ?」

と、ものすごく上から喧嘩を売られているようなセリフだったが、それがエリンギなのだろうと思っていたのでへらりと笑って受け流した。

「部活やってるからね〜。それなり、よりもちょっと高い点数維持しとかないといけないの。俺は好きでバレーやってるから、勉強出来ない理由にされたく無いんだよ」
「……へえ。顔の割にはいい考えしてんだね」
「一言余計だよ」

この時けたけたと笑って終わっていたのは、なにより彼女を天然だと思い込んでいた所為なので勘違いは偉大だ。

エリンギなめこは天然などではないし、あの時のセリフは「喧嘩を売られているような」ではなく、「喧嘩を売られていた」のだ。
遠回しに、バカはバカらしくしていろと言われていたのである。

しかし、一瞬だけ面食らったような顔をした後に言われた「顔の割には」、なんて失礼な言葉は、中学生時代では最初で最後の彼女流の賛辞であった。


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