とある部外者Xとの瑣事




(雑談スピンオフ)



「ふーん……で?」
「えっ」
「なんだそれ自慢かよって言ってんの。俺今彼女居ないんだってこないだ言ったじゃん」

ズゴゴゴゴッ、とそこそこ行儀の良くない音を立ててカフェモカを飲み干し、止めにガシガシとストローをすり潰しながら。
あからさまな不機嫌顔で、及川は言い放った。

期待に沿わなかった返答に、矢巾も負けじと渋い顔を作ってもにょもにょと言い返す。

「そっ、うは言っても、俺の知り合いで女子の扱い上手そうなの及川さんくらいしか居ないんです」
「女の子弄んでるみたいな言い方しないでよ人聞き悪いんだから。……だいたい、たまの休みに俺に時間取らせて弓長さんの事相談するくらいなら弓長さんと会ってあげなよ」

女の子が優遇されてるって思うのは会ってる時だけなんだから、と面倒くさそうに言って、コップから手を離して椅子の背もたれに寄りかかった。
それで解放されるかと思いきや、「今日は弓長の方が眼科行ってメガネの調整するって言ってたんで無理です」だそうだ。

それにまた言い返す気力も無くして、ああそう、と投げやりな返事をする。

それからちろりと目の前に座る後輩を見やって、溜息をついた。

「……なんですか」
「いーや? ほんっと世の中不公平だなあと思ってサ」
「はい?」
「俺とお前、条件は殆ど同じ筈なのに当たりとハズレが極端過ぎるもん」
「はあ? なんの話ですかそれ?」

及川の唐突な例え話に、文句を言うのは矢巾の番だった。訳がわからないという顔で、今までの会話を思い出してみるが、これといって心当たりは浮かんでこない。

条件だとか、当たり外れだとか、一体何の話かと首を捻る矢巾をよそに、及川は手近な店員を呼びつけてフレンチトーストとコーヒーのおかわりを注文した。

空になっていた及川のグラスを店員が下げていってから、やっと及川はだからさ、と例え話の続きを始めた。

「俺もお前も、ただの凡人で、バレーで強豪校のセッターやって主将やってて、天才達に嫉妬しながら虫の居所の悪い時は憎んだり恨んだりさえして」
「……そっすね」
「……そんで何故か別分野の天才が近くにいて」
「えっ」

お冷グラスの結露を見つめながら話していた及川が、急にキッと矢巾を睨みつけて、

「ここまで条件同じなのにお前のトコの天才は超イイ子で俺が知ってる天才はこの世の悪魔みたいな性格してんの!? ねえ、なんで???」
「…………」

あり得ないんだけど! と喚き始めた及川に、そんなの知るかとついうっかり飛び出しかけた言葉を飲み込んで、矢巾は素直に尋ねた。

「ちなみになんですけど、及川さんが言ってる天才って誰なんですか?」
「ああ、お前が知らない奴。北一で一緒だったけど高校はうちじゃなかったから。……ほんっと、やることなすこと一事が万事癪に触る女だった」

その"女"を思い出しているのか、及川はまた不機嫌顔で頬杖をつく。

こうなってしまっては及川もまともに話を聞いてくれそうにないし、なによりあのフェミニストと言って過言ではないであろう彼の、女子相手には中々見ないそんな態度に興味が出て、どんな人だったんですかと地雷を踏むような気持ちで恐る恐る聞く、と。

「……別に、たいして面白い話でもないんだけどね」

そう言いながらも、初めて会ったのは中学1年の時だったよ、と、ポツリと及川は話し始めた。


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