ある休日のこと。



たまたま偶然、休日の買い物がてらぶらぶらと歩いてた時だった。

「あ」
「!」

久しぶりにまともに顔を合わせたそいつは、初めて言葉を交わした時と同じ顔で笑って、「暇そうだね、少し付き合ってくれ」と。
私の返事も聞かずに背を向けて歩き出した。
正直、そこで私はあえて逆方向に歩くことも、無視することも、はぐれたふりをしてメールで適当に詫びることも出来たわけだけど。

私は小さく息を吐いて、どれをするわけでもなく、おとなしくついていった。
そうさせるのがやつのカリスマ性ってやつかな、なんて思いながら。

「おや。ついてきたか」
「なにそれ帰っていい?」
「どうせ暇なんだろ?」
「あたしには暇でいる事も立派で大事な用事なの!」

いーっと歯をむき出して文句を言うと、以前のように小馬鹿にした笑いで流されるかと思いきや。

「成る程ね。一理あるな。そういうのも必要か」

なんて、妙な笑みでつぶやくので。
うっかり次の言葉に詰まると、また人の良さそうな顔でにこりと笑って。

「エリンギ、WCは?」
「……見たけど」
「秀徳戦だけか?」
「決勝も見たよ」
「そうか。どうだった?」
「どう……て」

キセキの世代と呼ばれた彼らが、チームとして瓦解していくのを目の前に見ていた。凡人ながらに天才達を軽蔑すらした。

「……帝光ん時、"あんた"と最後に話したこと、覚えてる?」
「! ……エリンギくらいのものだよ。俺に何度もあんなこと言うやつ」
「そうじゃなきゃ、あんな事、起こらなかったよ」
「まあ……それは、そうだね」

それなりの人混みの中を、顔をあわせるでもなく、ただ並んでボソボソ喋りながら歩く。
結局赤司は付き合えと言いながらどこかに落ち着く気は無いのか、それとも落ち着く目的地へ向かっているところなのか、わからないまま。

「お前が」
「ん?」
「緑間と秀徳に進学すると知った時、てっきり桃井と同じ事を考えてると思っていたよ」
「桃井ちゃんは青峰が幼馴染みでほっとけなかったからでしょ。私が緑間と秀徳に行ったのはバスケ全く関係無い理由だもん。高校は部活しないって決めてたし」

答えた言葉に、そっか、そうだね、と勝手に納得した赤司は、エリンギの知る限りでは奇妙極まりなかった。

エリンギの知る赤司は、太々しい笑顔で弱みを握り、優しげな顔で相手を誘導する、生まれながらの"カリスマ"。

……で、あろうとする、ただの子供だ。

「完璧なものってさ、隙がないようで、実際すんごく脆いでしょ」
「ああ、そうだね。馬鹿みたいに繊細だった」
「前も言ったけど、私は人として赤司を尊敬してるよ。パシられたことはともかくとして」

実際、バラす気も無かっただろうし、と内心付け加えて。

「決勝で見た"あんた"の才能は、主将としても、なによりPGとしても、打って付けの、らしいモンだったと思うよ」
「……ふうん?」
「なにその反応」

喉の奥で笑い始めた赤司に胡乱げな視線を向けても、彼は笑い続けて。ふふ、と段々声も漏れるようになって。

「いや……ふふ、らしい、か。そう、エリンギからして、あれは俺らしい、か?」
「……〜〜〜〜っもーーー!! こっちがらしくないわやめやめ! ったく……」

調子狂うわ、と後ろ頭をがしがし掻きむしると、とうとう口を押さえてまで笑い始めて。
エリンギは「やっぱりついてくるんじゃ無かった」とボヤいて溜息をついた。

「……肩の力抜いて」
「うん?」
「息抜きするのって、大事なことだよ」
「ああ、まったくだ」
「青峰あたりに習ったら?」
「それも悪く無いな」

こうなったら、自分がなにをしても笑い出すのでは無いのかとさえ思う。
真面目に話してるというのに、喉の奥をずっと鳴らしている。失礼なやつだな。

「"なめこ"」
「えっ、なに、急に」
「……いや。お前が、"俺たち"の友人で良かったよ」

今まで愉快そうに笑っていた顔とは違う、穏やかさで零された。
が、それもやや荒んだ目で口をへの字にして受け取ったエリンギは、はぁ、と溜息を深々ついて。

「……あんま気持ち悪いことばっか言うならあたし帰るけど」
「ははっ、それは困る。せっかくの暇つぶしだ。お茶ぐらいは付き合ってくれ」
「はぁ。店はこっちで決めるからね、変にケチつけたら帰ってやるからな」
「いいよ。エリンギが選ぶ店に行く機会なんてそう無くて面白そうだ」
「あ〜〜〜〜〜〜ムカつく〜〜〜〜〜〜絶対普段行く店には行かない」

あはは、と、結局声を上げて笑い始めた赤司に、エリンギは苛立ちを隠す気もなくガツガツと靴音を鳴らしながら早足で先へと踏み出していく。

休日は、まだまだ始まったばかりだ。

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