その4




孤爪研磨は、こと人付き合いというものがどうしても苦手だった。それは幼い頃からずっとそうであり、周りを気にしすぎるがゆえに1人を選んできた、そんな少年である。

しかし、人と関わることが嫌いかといえばそうでもない。現に、少々強引ながらも遊び相手になっていた黒尾とは付き合いの切れぬままに高校までやってきたし、高校では彼の影響で始めて続けていたバレーでの関わりができた。その関わりは、研磨の質を十分に理解してくれている者達ばかりであるので、十分に過ごしやすく、すっかり気の置けない間柄である。

そんな彼が、未だクラスに馴染めているはずがない4月半ば。最悪の事態―後々としてはベタなきっかけ―となる事件が起こった。
……なんのことはない、消しゴムを忘れてしまったのである。
板書を取っていて間違えたことに気付き、ペンケースをゴソゴソを漁ったが、無い。
机の上を眺めるも、出ていない。

どうしよう……。

教師が結構な範囲での書き直しをしてしまった為、二重線の取り消しでの書き直しは面倒というか、スペース的に難しいものだった。
かといって板書を放棄すると、どうやらテストが危ない。
まあ普通は隣や前後のクラスメートに消しゴムを借りれば済む事なのだが、それが出来れば孤爪研磨ではない。
あわあわと次々書かれていく黒板と訂正のできないノートを交互に見ている、と。

「孤爪くん、これどーぞ」

机の上ににゅっと伸びてきた小さな手が、ころんと消しゴムを一つ、置いていった。

「!? ……え、なん、で」
「消しゴムでしょ? 私二つ持ってるから、今日1日使ってていいよ」

びっくりしてその手の引っ込んだ方を恐る恐る伺うと、にっと笑って、ひっそりそう言った。

「……ありがと」

2年になって2週間、なんとそれが研磨とエリンギのファーストコンタクトだった。

それからほんの少しだけ話ができるようになり、5月以降の席替えで席が離れても、今までは悪魔の言葉としか思わなかった「二人組作ってー」という教師からのお達しがあった時は(必然的に余る研磨に)エリンギが協力してくれるようになり、そのうち研磨の方からもふらふら寄っていくようになった。
元々警戒心の強い研磨であったが、それが解けると普通に話せるし、案外簡単に「この人は良い人だな」と刷り込みが為される。
更にエリンギの方も、警戒心の強い野良猫に懐かれていくような達成感(?)や、充足感を覚え始めたわけで、2人はじわじわゆるゆると距離を縮めていったのだった。

そんな折、たまたま二人きりになった朝、まさかまさかの研磨からの告白により2人はめでたくお互い好き合っているという気持ちを知るに至ったのである……!!
……が。

「付き合うとか具体的になんなのか全然わかんないから別に付き合いたいって思わないし俺部活とゲームと授業で忙しいしそれ以外は疲れるしそもそもなんで両思い=付き合うになるの別に義務じゃないんだからいいじゃない別に」

と、珍しいマシンガントークでつらつらと語った研磨の思考により、エリンギの恋はまだまだ始まったばかりなのだと黒尾は悟るのであった。


[ 5/15 ]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -