その2




購買の袋をぶら下げたエリンギさんがひょこひょこと挙動不審に3年5組の教室前に姿を現したのは、昼休みが始まって10分程してからだった。

ついお昼ご飯を持ってきてしまったのですが、ご一緒させて頂いても宜しいのでしょうか、なんて果てしなく今更な事を言ったので思わず吹き出して、近くの女子の椅子を拝借して「まあどうぞ座りなさいよ」と促した。

失礼します、と今更なくらいカチコチになってその椅子に座ったところで、夜久も椅子だけ引きずってきて座った。これで準備は完了である。

「で、だ。エリンギさん。あっ、飯は食いながらでいいから、ちょっと俺たちにもわかるように話してもらえたら助かりますが」

そう切り出すと、カチコチだったのが嘘のように、先刻廊下での初対面時と同じキリッとした顔つきになって、はい、と重々しく頷いた。

話は今朝の朝練後に遡るらしい。

「あっ孤爪くんだ」
「! あ……エリンギ、さん」
「おはよう〜バレー部の朝練?」
「……うん、一応。スタメン、だし」
「ひょ〜そっかそっか! すごいねえお疲れ様。運動部は大変だねえ」
「……うん、まあね」

エリンギなめこは園芸部(仮)であった。何故(仮)なのかというと、元々はちゃんと存在していた部活だったが、現在はエリンギ以外の部員が居ないのである。部員はおらずとも花壇はあるので、用務員のオッチャンとマブダチしながら日々植物の世話に勤しんでいるのだ。

話は逸れたが、彼女はその花壇の世話の為、朝早くから学校にいて、水を撒いて花の様子を見守っていたのである。その為、偶然研磨が教室に戻る時に鉢合わせしたのだが。

「……あの、さ。エリンギさん」
「うん? どうしたの孤爪くん。早く教室行かないと遅刻になるよ?」
「…………あの」
「……?」

呼び止められて振り向いた時、さあっ、と風が吹いた。
俯いた研磨の表情は見えなかったが、いつも顔にかかる前髪が風に吹き上げられて、猫目がいつもよりしっかり見えて。

風が近くの木の葉を鳴らしていく音に、彼の声はほとんど隠されてしまったけど、エリンギは確かに聞いた。

「……おれ、エリンギさんこと、好きみたい」

目尻を赤くして言われた、その言葉を。


[ 3/15 ]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -