その3
中学二年の半ば。及川くんが好きです、と学年で一番可愛いって男子が騒いでた子に告白された。
正直付き合うなんてよくわかんなかったけど、彼女が居るって響きに意味も無く憧れを持つ時代だったし、一生懸命「付き合ってください」って言ってくれた彼女は確かに可愛かったから、その場でにこりと頷いた。
だけど、それは長くは続かなかった。
可愛い彼女は付き合う日数が増えるにつれてワガママも増えた。別のクラスってのが幸いしていたけど、それが日に日に重荷になってきて頭を抱える俺に、「馬鹿だなあ」とストレートに笑い飛ばしたエリンギの、妙に楽しそうな顔を覚えている。二年目も同じクラスだった。
彼女の名前は、申し訳ないことに今は覚えてない。考えてみればろくに名前を呼んだこともなかった気がする。
付き合いが二ヶ月に満たない頃、ワガママにほとほと疲れきった俺はかわいそうかなと思う余裕も無く其れはもうバッサリと振ってしまった。
わんわん泣かれたけど、取りつく島もないくらいに振った。
他の女の子達から責められるかと思いきや、女の世界とは世にも不思議で存外無情だった。
「女子って怖い」
「自分より秀でてるのは認めるけど内心見下してる、ってやつの不幸を喜ばないバカはいないよ。慰めてフォロー入れてるフリしてるお優しい子達も、内心両手を上げて喜んでるだろうね」
「そんなもんなの」
女子の心理戦(?)に恐れ戦く俺と、至極愉快そうに話すエリンギはあまりに対照的だった。
「そんなもんだよ。あんただって、まああり得ないけど、私よりいい点取って私がそれで泣いてたら『たまたまだよ、まぐれ!』とか言いながら慰めつつ内心ほくそ笑むだろ」
「例えが嫌過ぎるから止めてくれないかな」
「いいじゃん例え話なんだから。ありえないことを面白おかしく喋って何が悪いの」
ケラケラ笑って、でも思ったより長く続いてたねと廊下を見ながら言った。
ついつられて振り向けば、振ったばかりの女の子が取り巻きみたいな子達に囲まれて、談笑しながら移動しているところで。
ボソリと、「頭悪そう」なんて呟いていたのが、妙にハッキリと耳に届いた。
本当に、一から十まで失礼極まりない女だった。
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