× × × × ×
 


例えばよくある少女漫画なら。

クラスメートのちょっと苦手な相手の意外な一面にどきっとしたり、イケメンに一目惚れしちゃったり、喧嘩仲間みたいな相手のことが実は好きだけど素直になれなかったり。

そんなありきたりな数々の展開に、これは含まれるだろうか。

「はー……実習暑かったねー」
「新陳代謝活発な俺らを殺しに来てるようなもんだろ。マジあっちい」
「ふふ、言えてる」

けらけらと笑いながらの会話の最中、実にさり気なく肩より少し長い髪をテキパキとアップにする。

そういや女のフェロモンとやらは脇の辺りから出るとか何とか、前になんかドラマで見た気がする。
あと男はうなじに弱いとか、そもそもその髪を上げる仕草に弱いとか。まあどっちかというと俺は髪が張り付いてたり、それを鬱陶しそうに払いのけてる仕草の方が好きだけど。

けどまあ、俺個人の話は別として、たったそんだけの作業をガン見してるようなクラスメートも何人か。

やっぱりこれは計算だろうなとデオドラントウォーターを取り出す彼女を冷静に分析してみたりする。

「あ、二口くんも使う? 結構スースーして気持ちいいよ」
「えー杜若の? そういうのいろんな匂いついてんじゃん。俺からフローラルな匂いしたらキモくね?」
「大丈夫だよ、一番スタンダードな石鹸だから!」

ぴたぴたと腕や首に広げていって、ほんの少しだけボタンを開けて控え目に胸元や背中の方にもなじませる。
薄いピンク色のキャミソールが、彼女の肌までは見せてくれなかったが。それがわざとらしくない計算された天然ってやつだろうか。

なんて邪推の最中に、もう一度首を傾げられたので、じゃあちょっと頂戴と手を差し出した。

「俺シートしか使ったことねえんだよ。どうすんの?」
「手にちょっと出して、スーッと広げるだけだよ。一回手のひらにちょっと広げるといいかも」
「ふーん……こう?」

見様見真似でぴたぴたと腕に広げて、それから首にも塗ってみる。
ああなるほど、確かに思ってたより涼しくなったし、べたべたしない。

「どう?」
「思ったよりいいなこれ」
「でしょ? シートみたいにゴミも出ないからさ」
「あー、確かに」

手汗でべたべたしていたのも払拭され、握ったり開いたりしていると微かな石鹸の香り。

パタパタと自分を扇ぐ杜若の方からも、微かに石鹸の香り。

「俺らしばらく同じ匂いすんな、これ」

悪戯めかして笑ってみたが、このセリフでときめく少女漫画のヒロインの気持ちはわかんねえなと我ながら内心爆笑した。

まあ、杜若が確かにねと小さく笑ってくれる程度の機転の持ち主だったので、よしとしよう。


 
...隣の席というシチュエーション 

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