× × × × × 「お前最近あからさまだな」
小原に言われて、きょとんとした顔を作ってみたけど、青根にすら頷かれてはしらばっくれてもしょうがないようだ。
「だって杜若面白いんだもん」
「いつか刺されるぞ」
「青根が助けてくれる」
「助けない」
「親友を見殺しにすんのかよ!」
「自業自得」
「まあ青根が正しい」
「はあー? わかってないなお前ら」
締め終わったネクタイからぺいっと手を離し、ガツンと部室の棚を鳴らしながらやや荒々しく荷物を引っ張り出して、口角を釣り上げる。
「ああいう常に余裕綽々みたいな顔されたらさあ、必死な顔させてやりたいじゃん」
「……性格悪っ」
お前一回刺されろよと小原の容赦無い言葉をケラケラ笑い飛ばしながら、でも杜若だって多分俺と考えてること一緒だと思うんだけど、なんて心の中で呟いた。
口に出したら多分反論されるだろうし。
でもきっと間違いじゃない。
なんて言うか、まあ、勘だけど。
でも前にたまたま垣間見た本性みたいなのとか、勝ち誇ったような笑みやセリフ。
根拠なんてのは、それだけあれば充分なはずだ。
が、多分同じことを感じ取っているのは向こうだって例外じゃないだろう。
頭を使い過ぎて画策しすぎると逆に相手にはめられかねないし(まあその探り合いのスリルが楽しいんだけど)、さてどうしよう。
……こういう場合、ストレートな方がいいかもな。
「茂庭さあん」
「おー、なんだ二口。……な、なんか企んでないだろうな?」
「後輩の純粋な笑顔に対してなんてこと言うんスか!」
「日頃の行いだろ」
「鎌先さんに言われたくないんすけど〜」
「あ!?」
「あーもーわかったわかった俺が悪かったよ! 喧嘩すんな」
簡単に挑発に乗ってきた鎌先を軽く小馬鹿にしてから、改めてどうした、と向き直ってくれる我らが主将、そして正セッターに、エースを前に生意気な要望を口にする。
「今度の練習試合、俺に多めにトス下さい」
「はあ!?」
「なに企んでんだお前マジで」
素っ頓狂な声を上げた茂庭と、引き気味に探って来る鎌先は対照的で、その後ろに現れた笹谷がニヤニヤしながら。
「なんだ二口ー、好きな子でも呼ぶのか?」
と、いつものようにおっさんよろしく絡んで来たのに、ニヤッと笑い返して。
「そっすね。女の子呼ぶんで、まあ、イイトコ見せなきゃじゃないっすか」
「ほお〜?」
ちゃんと決めるんで、お願いしますね茂庭さん、と駄目押しするようにニカッといつも通り生意気に笑っておいた。
さて、これで準備は整った。
茂庭が本当に自分の見せ場をいつもより多く作ってくれるかどうかはさしたる問題じゃない。
問題は、彼女が素直に来てくれるかどうかだ。
好きな子、では無いけれど、観戦に誘うつもりの女の子が。
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