女の子って大変だ




「おはよっす黒子っち!」
「……おはようございます、黄瀬くん」

先日の2軍の練習試合に1軍代表として二人揃って参加した日を境に、黄瀬の態度はガラリと変わっていた。
外野としてみている分にはもはや清々しく、あの態度を気に食わないような人もいるのだろうが、寧ろあれは黄瀬の美徳だなぁなんてぼんやり思った。
が。

「黒子ー」
「はい?」
「この前言ってた本持って来たけど、今日持って帰れる?」
「はい、大丈夫です」
「いえいえー。じゃあ帰りに渡しまーす」
「ありがとうございます、烏丸さん」
「んーん」

ぺこりと小さくお辞儀する黒子の背後、今の今まで彼と話して(?)いた黄瀬はなんとも言い難い微妙な面持ちだった。

(まあ、多分あいつ私のこと苦手なんだろな)

好む相手と苦手な相手が目の前で、しかも苦手な相手の方が自分より厚遇されているとあまりいい気がしないのは仕方のないことである。正直烏丸自身も黄瀬と仲良くしたいとは言い難いので構わないのだけど。

「円ちゃん、ね、黄瀬くんどう!?」
「どう……とは」
「もーっ! だから、やっぱカッコいいでしょ? ねっ、ねっ?」
「一軍マネいいなあ……しかも赤司様からの指名なんて!」
「あ、あかしさま……」

他のマネージャーの子達は、それはもう黄瀬涼太に対する関心でいっぱいいっぱいらしかった。
更に、以前から側から見てもカリスマ性の塊みたいな赤司にきゃあきゃあ言ってたのが、最早同級生に対するそれでは無くなって来ていることにたじろいで。

「おう……まあ、でも私あんまり選手に関わってないから、個人をじっくり見る機会もあんまなくてわかんないかな」

へら、と軽く笑ってその場を後にした。

「正直私三次元のイケメンに興味無いんだよね……」
「円ちゃん好きな人いるの?」
「えっ」

ぼんやり、先程の話を思い出しながらついうっかり独りごちると、後ろから答えが返って来て、思わず間抜け声で振り向くと。
なぜか爛々と大きな目を輝かせた桃井が、烏丸と同じく洗濯カゴを抱えて立っていた。

「タイプの話でしょ? なんのイケメン? どんな人がダメなの? っていうか、どんな人ならいいの!?」
「えっ、えっ、なになにどうしたの桃井ちゃん」

グイグイと洗濯カゴごと迫ってくる桃井をどうどう、と落ち着かせて、2人並んで洗濯物の処理を始め。
そうして改めて、先ほどの剣幕は一体どうしたことかと尋ねると。

「そ、そのう」
「うん」
「円ちゃんとそういうお話ししたことなかったから気になっちゃって」
「………………あ」

もじもじもにょもにょ白状した彼女に、ピンときて、

「桃井ちゃん、好きな人でもできたの?」

と、ストレートに訊いてみると。

「えっ、やっ、やだあそんな好きなんてまだそんなハッキリ思ってるわけじゃないよちょ〜っと気になってるかなあってだけで!!」

激しく照れながら少し大きな声で早口のコメントに、「ああこれは誰か居るな」と察して思わず口角が緩んだ。少女お漫画のヒロインよろしく、可愛いものである。
ニヤニヤしていたのが顔に出たせいで、「笑わないでよそんなんじゃないんだからほんとに!」なんてやっぱり早口なお小言にごめんごめんと軽く謝って。

「で、誰?」
「………………くん」
「ん?」
「……く、くろこ、くん」
「……おお?」

これは、予想外で大穴の返答だった。


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