こうして始まった。

 


「あ」
「む」

冬休み前、図書室。
とある推理小説に手を伸ばすと、テーピングの巻かれた左手が右隣から伸びてきた。

言わずもがな、今日も今日とてラッキーアイテムを持っていた緑間だった。

「緑間くん、これ?」
「ああ……烏丸もか」
「ん、そのつもりだったけど。いいよ、緑間くん。どうぞ」
「……いいのか?」

じっ、と伺うような視線を向ける眼鏡の奥の双眸に、頷いて笑った。

うん、確かに色んな験担ぎは変わってるけど、普通にいい奴だ。

「私一回読んだから。ただ、これの前のシリーズ全巻持ってるから、冬休みの間にこっちまで一気読みしてみようかなって思ってたの」
「前のシリーズ……パンドラの章か?」
「お、流石。私あの章が好きでね〜大人買いしちゃったんだ」
「そ、そうなのか……」

冬休みに借りれるのは3冊。まったく、上限無しにしてくれたらいいのになあと、近くの棚から次の候補を探す。
緑間は、さっきの本を取ったり戻したりを繰り返してソワソワしていた。

……あー、もしかして。

「緑間くん、パンドラの章未読なの?」
「あ、ああ。うちの近所にはなくてな……」
「ふーん……読む? 貸そうか?」

この生真面目の権化みたいなやつが相手ならば、借りパクなんてセコいことを気にする必要も無さそうだし。
そう思って何気なく切り出したら、物凄く迫られていいのか、とやたら低い声で言われ、ビビりながらも頷いた。

そうして早速翌日の朝練の時に渡してやったら、律儀なこの男はなにか礼をと言うので、オススメの本があれば返す時に貸してくれと言った。

そうすると次第に、貸し借りが日常化していったのだった。


 
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