思わぬ弊害だ。

 


黒子の才能の乏しさは知っていた。が、それ以上の努力も知っていた。

だから、まあ単純に彼が一軍に上がってきたのは、嬉しかったと思う。初陣でも(初っ端鼻血で5秒で交代して降格の危機に陥ったけど)活躍してしっかり実力を見せつけたのも、妙に誇らしく思ったりした。けど。

「最近あんた見つけづらいからほんと困る。私が探してるのに気付いたら大声で叫ぶとかしてくれない?」
「僕、声張るの苦手なんですすみません」

ミスディレクション。
手品に用いられる視線誘導のテクニック。

短期間でそれをマスターするために普段からそれを実行していた所為か、マスターした今、試合中程ではなくても無意識にそれをしてしまっているらしい。

「まあいいや。今日は帰り、残るの?」
「はい。さっき青峰くんと約束しました」
「そ。じゃあマジバ寄って帰らない? ほら、シェイクの割引券あるし」
「! 行きます……!」
「ん」

密かに目を輝かせた黒子に、満足げに頷いて。
くるりと振り向いた。

「紫原は? どう?」
「えー……それって黒ちんと峰ちんの自主練待ってなきゃじゃん。だからパス」
「それもそーか。緑間くんは?」
「俺も今日は早く帰らねばならんから遠慮するのだよ」
「そっかあ」

青峰がこの場に居れば、むしろお前よくこの二人が来ると思ったな、と笑い飛ばしたところであっただろう。
しかし。

「あ。あーかしー! 赤司はー? 部活後!」
「!」
「!?」
「部活後? なにかあるのか」
「青峰とか黒子と自主練の後にマジバ寄ろうって話してた! 行かない?」
「マジバ……」

当の烏丸と赤司を除く、体育館に居た全員が固まった。
それを楽しみに目を輝かせた黒子も、たった今同じ話を振られた紫原と緑間もだ。

まさかまさか、こんなに怖いもの知らずだったなんて。

全員の心は一つだった。

誰と知れず、ごくりと生唾を飲んだ。

「……いや、俺は、止めておくよ」
「えー、そう?」
「ああ。そうだ、寄り道は構わないが、余り遅くはならないようにしろよ」
「わかってるよ。じゃあまた今度ね!」
「そうしてくれ」

はあー、と。やはり誰と知れず、安堵の息を吐いた。

全く、怖いもの知らずの存在は、周りの心臓に悪いったら無いのだよ。

緑間は、近い将来"怖いもの知らず"本人にそうこぼすのだが、それはまた別の話。


 
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