馴れ初めってやつ

 


「烏丸」
「え」
「? なんだ、その反応」
「いや……緑間くん、私の名前知ってたんだ……?」

先日、ひょんな事で言葉を交わしたが、その時は名前を呼ばれなかった。
だから、まあ顔くらいはさすがに知っていただろうけど、名前はすっかり忘れ去られているものと思ったのだけど。

間抜けな反応をした私に対して、緑間は怪訝な顔をした。

「一軍に来た時に自己紹介しただろう」
「忘れてるかと」
「そんな間抜けではない。第一、あれだけ毎日赤司に呼びつけられているような奴、忘れようというのが無理な話なのだよ」

そう言えば私自身慣れた上に気にしてなかったから気付かなかったが、それが尤もだ。

それもそうだねと小さく笑い返すと。

「ところで烏丸。お前、何座だ?」
「は?」
「お前の十二星座はどれかと聞いている」
「あ……ああ……牡牛座だけど……?」
「そうか。今日の牡牛座は8位、少々芳しくないが、ラッキーアイテムの鉛筆を持っていれば運は向上するのだよ。鉛筆は持っているか?」
「えっ……あ、いや、シャーペンしか」
「……そうか。では仕方ない、これをやるのだよ」
「ありがとう……?」

グイッと半ば強制的に握らされたのは、湯島天神の鉛筆(三本入り)だった。人事を尽くして天命を待つ、と書いてある。

勢いに圧されて惚けているうちに、それではなと背を向けて行ってしまった。
噂に違わぬ変人っぷりに困惑して、たまたま一緒に帰ることになった赤司にそれを話してみると、ぷすりと笑った。

「くっ……はは、そう、そんな事があったのか。緑間がソワソワしていたわけだ」
「え、なに? 赤司意味分かんの?」
「いや、俺の推測だ。多分、緑間はお前に礼がしたかったんだろう。礼のつもりだったんだ」
「はあ? なんで」
「なんでもなにも、お前達の接点なんかこの間の本のことしかないだろ」

あれで変に律儀だからな、あいつ。よくわからんが。

「……赤司って結構テキトー言うよね」
「たまにはな。まあでも、当たらずとも遠からずだと思うけどね。お前が牡牛座だって、初めから知ってたんだし」
「え」
「だから都合よく鉛筆持ってたんだよ。そうだろ?」
「あ」

お前、鈍いな。

見下ろされた風体で軽く笑われた。鼻で。ムカつくこと山の如しだが、それ以上に、こうして見れば赤司もちゃんと人間だな、ところころ表情を変える珍しい様を見ていた。


 
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