これが初めまして。

 


一軍専属になってから一週間。
私は順調に赤司のパシりに昇格しつつあった。

「烏丸」
「はーい」

とか。

「ちょっといいか烏丸」
「はいはいなんですか」

とか。

「烏丸、早くしろ」
「ちょっと待ってってば!」

とか!!!

なんかもう、尋常じゃないくらい赤司に呼ばれる。
桃井が近くにいてもわざわざ呼ばれる。
それに気付かない馬鹿は居なくて、虹村には「お前なにしたんだよ」と大変気の毒そうな顔で言われるし、桃井に至っては「円ちゃんて赤司くんに頼られてるね!」なんて朗らかに言われた。

「ムカつくから赤司受専用のノート作った」
「……それ、わざわざ俺に言う必要あるか?」

私と赤司しか居ない部室。
呆れ顔でパチンと赤司が桂馬を動かした。

「いや、まあ嫌がらせかな」
「弱みを握られてる割には図太いね」
「どうせよっぽどの事をしない限り言いふらす気はないでしょ」
「まあね」

またパチンと音がした。
すると、ふと盤上に向けていた視線を腕時計にやり、それからこちらを向いた。

「お前、将棋はさせるのか?」
「いや……駒の動きならわかるけど」
「じゃあちょっと相手してくれ」
「は?」
「緑間を待っていたんだが。中々来ないものだから、暇なんだ」
「赤司私の話聞いてた?」
「駒を動かすゲームだ、駒の動かし方以外に必要な知識があるか?」
「つまんないでしょって言ってんの」

理屈はわかるけれども、つまりは探り合いのゲームじゃないか。
私がそんなゲームに向いているとは思えないし、将棋なんて実際にやったことが無い。

けれど赤司は既に駒を整えていて、やってみないとわからないだろう、と薄く笑って言った。くそ、許さんぞ緑間とやら。

「すまん赤司、遅れた」
「ああ、遅かったな緑間。どうしたんだ?」

私が三回負かされた後、ようやく緑間が現れた。

緑間は赤司の対面に座る私を見て少々驚いた顔をしていたが、用済みだろうと席を譲ると、なんでもないように本が見つからなかったのだよとボヤきながら座った。

「図書室で本を借りてから来るつもりで探していたのだが……結局、貸し出し中だったのだよ」
「へえ。なんてタイトル?」
「3分ミステリーと言う短編推理集なのだよ。単純な物からかなり専門的な知識が必要な物まであって案外面白いぞ」

私がボロ負けしたままの盤に、訝しげな視線を向けて、始めの状態に並び替え始める。
それを横目で見ながら、ノートを纏めていると。

「あ。緑間くん、ごめん。私が借りてた」
「なに……?」
「さっき言ってた本、これでしょ。今日返して帰ろうと思ってたんだけど」
「……今日、返すのだな?」
「うん」
「なら、放課後にまた図書室に行けばいいのだよ」

それきり、彼はすっかり赤司に向き直ってしまった。

多分、それが私が始めてした緑間との会話だった。


 
[ 12/20 ]



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