清々しい程の横暴

 


二学期の半ば、それは突然訪れた。
ちなみにその日の昼の私は、放課後にどんな悲劇が待ち受けていたかも知らず、のんきに一狩りしていたわけだが、それは置いといて。

三軍の体育館に一軍のスタメン(ていうか主将)が来るというのはどうやら非常に緊張してしまうものらしい。
いくら出入り口に背中を向けていたって、扉が開いた瞬間に館内の全員がざわついてピリピリし始めれば気付くもので。

「一年マネージャーの、烏丸ってやつ、どいつだ?」

しかも、そんな中で視線が突き刺されば、どんだけ図太いと言われる私でもそりゃあ居心地の悪いものなのである。

「烏丸は私です、虹村先輩」
「あ? なんだ俺のことは知ってるか」
「はあ、そりゃ勿論……。ええと、なんでしょうか」
「ふん……お前、結構テキパキ働くらしいな」
「え、あ、ありがとうございます」
「お前だけ一足早く二軍の方に回って貰うことになったから、それを伝えにな」
「えっ」

二年に上がったら(新規マネージャー希望者数にもよるが)、私たちの仕事は二軍メインになるような事は確かに聞いていたが。
何故、こんな中途半端な時期に私だけ二軍に?
思いっきり顔に出てたらしい。

そんな顔してんじゃねえよとかなり鋭いデコピンをくらった。やばい待ってめっちゃいてえ。

「先輩、手加減とか……っ」
「十分したわ。二軍にいた三年が引退しちまったからな、今二年が一人で回すことになってどうにも回らねえんだと」
「はあ……」
「だから三軍から誰か連れてこようって話になって、お前にお鉢が回ったんだよ」
「なるほどです……。ええと、いつから?」
「来週からでいいよ。じゃ、頼んだぞ」

ぽんぽん、と言うより、べしべしと頭を軽く叩かれてそう言い渡された。

せっかく三軍の選手達の癖も把握できてきて、仲良くなれたのになあなんてひっそり別れを惜しんでいたら。
また、緩んだ空気が一瞬にしてピリッとしたのに気付いて振り向いた。

「……ええと、赤司くんじゃん。ここ三軍の体育館だけど」
「勿論知ってるよ。突然悪いんだけど、前に練習試合に出たメンバーの記録が欲しいんだ。君、頼める?」
「ああ、あれなら記録取ったの私だから。ちょっと待ってて」
「ありがとう、助かるよ」

にこりと微笑んだ小柄な彼は、とても一軍とは思えない。
でも事実一軍だし、なんとなく同年代っぽく無いよなあなんて思ったりもしていた。

一冊のノートを彼に手渡すと、中身を確認するようにぱらぱらと斜め読みし始めた。
おいおい、君が居るとこの体育館緊張感ヤバいからあとでゆっくり読んでくれよ、なんて思っていた時。

「……ねえ、君の名前はなんだったかな」

さっきの控えめな微笑よりもずっと綺麗に、にっこりと満面の笑みを浮かべて、ノートから顔を上げた赤司が、そう言った。


 
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