▽面倒事は基本的にお断り
「姐さーん!」
「んん? おーっ! 雛子!」
森の入り口にあるログハウス。
そこは森番をしている冴子の城だ。
「こないだは夜中騒がしくしてごめんね?」
「あー、ライオンの小僧か? いーって、気にすんな! ぶっちゃけアタシ全然気づかず寝てたからさ!」
あとから音駒の寮監の猫又のジイさんに聞いて知ったぐらいだ、とからから笑い飛ばした。豪胆と言うかなんというかである。
「それよりさ、アタシがあんたを呼んだのにはちょっと頼みがあんのよ」
「お? なになに? 冴子姐さんの頼みならなんでも聞くよ!」
大きな切り株に並んで座り、グイッと冴子が肩を組んでくる。くそっ、おっぱいでけーな……!
無意識に比べてしまうのは女の悲しい性だ。勝手に悔しがっていると、耳元に冴子の口が寄せられて。
囁かれた内容に、私は眉を顰めた。
「……なんでも聞くよとは言ったし、冴子姐さんにこんな事言いたくないんだけど、それ私関係なくね?」
「ぐっ、うん、まあっ、それを言われるのはわかってたけど! そこをなんとか!」
「えー……私ぶっちゃけクイディッチ自体あんま好きじゃないしそもそも烏野寮じゃないし……」
冴子は自分の出身寮が烏野で、更に弟が現烏野寮だからか、やや気持ちが烏野に偏り気味だ。
まあそれは別に悪くないと思うけど(ぶっちゃけただの森番だし)、しかしだからと言ってこれだけは頷き難い。
っていうか、なんでみんな私に問題事を持ち込もうとするの?
そこが最大の謎だ。最後の一年くらいは楽に過ごしたいのに。
そんなわけで、私が返事に渋っていると。
「おっ、龍ー! 丁度いいとこに! 救世主だぞ!」
「えっ」
「はぁーっ? あっ……! 雛子サンじゃないスか!」
「龍じゃん……うわっ、練習着だし……」
「救世主ってもしかして雛子サンスか!?」
「いやっ、まあっ、まだ了承はしてないんだけど……!」
俺説明とか旨くないんで、このまま練習見に来て下さい、丁度今からなんで、といいながらグイグイと引っ張られていく。
おいおいマジかよちょっと待ってくれ、なんて懇願は彼に届くことはなく、私はズルズルとされるがままになるしかないのであった。
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