▽やっぱ叶わないな 



「早起きだな、副寮長?」
「!」

フクロウ小屋から寮に、なるべくこっそり戻ってきたつもりの陸奥を談話室で出迎えたのは、茂庭、鎌先、笹谷の3人だった。

「……そっちこそ。茂庭はともかく、鎌ちと笹谷は随分早起きじゃない」
「あ……その、悪い、陸奥。いつもと、様子が違う気がしてさ」

ふ、と薄ら笑いで笹谷の出迎えに応えた陸奥に言葉を返したのは、茂庭で。
あまりに狼狽えるその姿にさすがの陸奥もたじろいで、一回、深呼吸を挟み。

「……ごめん。確かに、ちょっと気が立ってる」

両手を小さくあげ、降参のポーズをとって頭をふる。
そんなおどけた様子の陸奥に、じろりと鎌先の視線が向けられて。

「それ以外に言うことは?」
「無いです。……今は、とりあえず」
「……ならいい」

言うが早いか、鎌先はくあ、と大欠伸を一つ。
たったそれだけで、四人の間にあった張り詰めた空気は緩んだ。

笹谷も大きく伸びをしたり、茂庭は安堵の息をついたり。陸奥もまた、深呼吸を一つして。

着替えてくるわ、なんて言いながら男子寮の中へ戻る笹谷と鎌先とは裏腹に、それでもその場から動かない陸奥の元に茂庭が寄って来て、俯いた顔を覗き込む。

「……本当に、大丈夫か?」
「ん? だいじょぶだいじょぶ。ごめんね」
「いや、それなら、いいんだけど」

茂庭のほっとしたような笑顔に、力のこもっていた陸奥の肩がようやく、すとんと落ちた。
それを知ってか知らずか、茂庭は、ただ、と言葉を続ける。

「俺は難しいことはなにひとつわかんないけど。無理、するなよ」
「ん。ありがと、茂庭」

すっかり力の抜けた顔で、ひひっと陸奥は笑って。
そんじゃ私も着替えてくる、と談話室の奥にある、副寮長室へ戻っていった。

そしてその後、朝食時。
伊達工のテーブルから一番遠い、音駒のテーブルで。

研磨が大皿から取り分けたオムレツを、フォークの先で弄りながら、

「……あれ、どうなってるの?」

隣に座る黒尾にじろりと一瞥くれながらボヤく。
その言葉に、こんがり焼けたトーストにバターを塗りながら、黒尾は渋い顔をした。

「クロ」
「わあーってるよ。大丈夫だって。だから雛子の前で変な顔するなよ。お前に心配掛けたくねえんだから」
「なに、それ」
「年上の意地だよ。まあ汲んでやれ」

ざくざくと表面から小気味のいい音をさせてトーストを食べ進めながら、ちろりと研磨を見やる。
相変わらず、いつも通りに背中を丸めて肩をすぼめて、そして今だにフォークの先でオムレツを弄っていた。

「クロも雛子も、勝手」
「おう。年上の特権だ」
「……一つしか違わない」
「拗ねんなよ。……俺らがどんだけ口挟んでも、もうどうしようもねえんだから」

真反対のテーブル、いつもの席。
いつもよりおとなしい食事風景を眺めながら、ぺろりと唇の端についたパンくずを舐めとって言う。
その言葉に、研磨はまたもやジト目で黒尾を見て。

「……それは」

そして同じように、人の隙間から真反対のテーブルにいる幼馴染を見て、ぽそりと。

「……雛子が、マグルだから?」

すっかりスクランブルエッグに形を変えてしまったオムレツを、ようやくフォークで掬いながら。
研磨は恨めしげに呟いた。


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