▽これだから嫌いなんだ 



日中は未だ時折残る暑さも、日の登る曙の頃には無く。ずいぶんな涼しさを感じさせる気温に、陸奥は部屋着の上にローブを纏ってフクロウ小屋の前に居た。

「若利」
「やっと来たか、雛子」

昨夜この学園を訪れた、名ゲストと共に。

「それで? 名門校の有名選手がわざわざ何の用」
「……前に送った手紙と包みは、見てないのか?」
「ああ、あれ。開ける前に燃やして捨てたわ」

けろりと悪びれなく吐き捨てた陸奥に、さすがの牛島も少しばかり狼狽えたが、表面上は若干眉をひそめるにとどめた。

それも、なんとなく予想していたからだ。

「なら改めて言う。マグル界なんかにいないでこちらへ戻れ」
「あんたそれ私が『はいわかりました』って言うと思ってる?」

間髪入れずに言い放った切り返しに、牛島はぴくりと一瞬眉根を寄せた。それに構わず、陸奥は「だとしたら随分おめでたいわね」と鼻を鳴らして。

「あんたにゃ悪いけど、私、あんたの家嫌いなの。知ってるでしょ? その理由も」
「それで? だからお前はその才能を棒にふるのか?」
「……ふう」

理解できない、と言う顔をする牛島に、溜め息を一つ。そしてぽりぽりと後ろ頭を掻いて、フクロウ小屋の方へ手を伸ばす。

飛んできたのは、陸奥の愛鳥であるマメコノハズクのずんだではなく、大型の真っ黒な梟。黒尾の梟だった。

伸ばした腕にとまった彼女が、見慣れない牛島に対してカチカチと嘴を鳴らすのをもう片方の手で宥めながら。

「私はさ、あんたの事、嫌いじゃないよ。随分昔は数少ない遊び相手だったしさ」
「? なにが言いたい」
「けど、あんたの家と、あんた自身に染み付いたその孤高主義は嫌いかな」

そう言ってへらりと笑った。
ローブの内ポケットから取り出した手紙を、黒梟に預けて。

「私も改めて言おうか、若利。私はあんたの家のその考え方が大っ嫌いだし、それを恨む事をやめる気はない。私は私の居たいところでやりたいことをやる」
「……両親の跡を継ぐのか?」
「……さあ? それも悪くはないと思ってるけど。教える気もないね。わかったら、勧誘やめておとなしく帰ったら? 2週間口説かれたって靡く気ないから」

他になにか用があるなら別だけどね、と言うだけ言ってあっさり踵を返す陸奥の背を、牛島は黙って見送る。

……かと思いきや、静かに、陸奥の背に杖を振った。
白い閃光が、その背をまさに捉えんとしたその瞬間。

小屋の中の梟達が一斉に羽をばたつかせて悲鳴を上げた。

「……気絶魔法なんて、悪趣味ね」

陸奥は牛島には背を向けたまま、肩越しに杖を彼に向け、首だけで振り返っていた。
これまでの会話でも見せなかった鋭さで睨めつける陸奥に、牛島はけろりとした様子で肩を竦める。

「どうせ防いだだろう」
「梟が可哀想でしょ。それに、防げなきゃどうするつもりだったのよ」
「その程度だったとお前の評価を改めたところだ」

ホルダーに杖をしまいながら、悪びれもなく言ったその言葉に、陸奥は大きく舌打ちをして。

「……反吐が出るね」

そう吐き捨て、今度こそフクロウ小屋を後にした。


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