▽最悪の幕開け 



さてさてと勿体ぶって猫又が立ち上がると。

「諸君、夏休みは良い思い出が出来たかな? まあもしそうで無くとも、夏休み前にあった事は覚えているだろう」

ニンマリと言った猫又の言葉に、どこからか「交流会!!」と元気な声が答えた。
それにまた、彼は満足げに笑みを深めて。

「そうとも。また今期も、梟谷グループを招くことが出来る事になった。時期はもう少し先だがね」

今期は色々盛りだくさんだからな。
各々、後悔や大事の無いように過ごしなさい。

そんな言葉で締めくくられた教師陣からの挨拶に、ようやく晩餐会が始まる。

だが、やはりというかなんというか、その日の空気は異様だった。

主に、伊達工寮のムードメーカーの辺りを中心にして、随分空気が重たかった。
いつも通り、彼女らと背中合わせに座る校内一の選手と言われる青城寮のムードメーカーも、また。

「……チョット、国見ちゃん」
「なんですか」
「何アレ、どういうこと?」

晩餐後、それぞれが寮に戻り、それから更に後の消灯間際。
談話室から寮室へと階段を下ろうとした国見の襟首をくっと掴んで引き止めた及川の表情はなんとも険しかった。

そんな及川の肩の向こう側に見える、気の無い素振りで、でもどう見ても気にしている、岩泉の表情も、また。

「知りません」
「でも、国見ちゃん陸奥ちゃんの幼馴染なんデショ」
「まともに顔合わしたのも6年ぶりですよ。それに、ウシワカは生粋の魔法族なんでしょう。マグル生まれの俺が知るわけないじゃないですか」

馬鹿馬鹿しいとも言いたげな溜息を吐き捨てて、眠いんで寝ます、と国見は無遠慮に、今度こそ階段を降りていく。

その様子に嘘はないらしい。もちろん、眠いことではなく、彼が何も知らないことが、だ。
いくら日頃から慇懃無礼な雰囲気をまとっていても、気の置けない幼馴染である彼女以外には、最低限の礼儀は通している少年である。それがああして苛立ってるという事は、実際のところ、気になっているんだろう。

「……国見ちゃんがあの様子って事は」
「あ?」
「たぶん、俺たちが聞いたところで話してはくれない、ってコトかな」
「……たぶんな」

気の置けない関係である筈の、彼が"ああ"なっている。

あずかり知らぬことを、尋ね知りたい。けれど、幼馴染にも打ち明けないだろうことが安易に予想される話。

「……っア゙ーーーーーッ!!! ムカつく!!!!」
「うるせえ!」
「アダッ!?」

ガバッと仰け反りながら頭をかきむしって叫ぶ及川の背に、容赦なく岩泉の蹴りがお見舞いされてバッタンと倒れる。
ミントブルーの絨毯に倒れこんだ及川は、しばらくぶつぶつ(ひどい、いたい、等々)と岩泉に対する恨み言を呟いて。

そしてまるで仕切り直すように、大きな溜息をつくと。

「……ねえ、岩ちゃん」
「なんだよ」
「陸奥ちゃん、てさ」
「なに」
「……ほんとに、マグルなのかな」

ポツリとつぶやきを落としてから、ちろりと幼馴染を仰ぎ見ると。

なんとも形容しがたい表情で、岩泉もまた及川へ視線を落としていた。


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