▽案の定寝坊した
朝起きたら、寮には誰も居なかった。
だ、誰も起こしてくれなかったのかよ……薄情者共……。
本来女子寮には防護魔法がはられていて、完全なる男子禁制がしかれている。
が、私と茂庭が貰っている寮長の個室は男子寮と女子寮の境にある。
つまり私の部屋にのみ男子も入れるわけだから、男子だろうが女子だろうが誰か起こしてくれればよかったのに、と内心ぼやきながら支度を整える。
そうして食堂に入った頃には、既にどの寮のテーブルもすっかり盛り上がっていた。
ふらふらと自寮のテーブルの端の方に座ろうとしたら、丁度真反対側、音駒のテーブルからにょきっと伸びた手に招かれて、そちらに向かう。
「おはよ。なに? 黒尾」
「よう陸奥。昨日はお疲れ。まあ座って食えよ」
「私伊達工なんだけど……まあいっか。研磨、そっちのジャム頂戴」
「ん。……雛子、昨日なんかしたの?」
「……まあ、色々ね」
一口大に割ったパンに山盛りジャムを載せて口に入れると同時に、右肩をつつかれて振り向く。
そこには、昨日のライオン少年。
「……君、昨日の」
「ッス。一年の灰羽リエーフッス」
「はいばくんか」
「えっと……」
「あ、陸奥雛子。まあ好きなように呼んでよ。ちなみに私伊達工寮の三年です」
「あの、おれ、昨日雛子サンに怪我とか」
「そりゃしたけど、骨までいってなかったから魔法で治したよ。君もそうだったでしょ?」
「起きたらクロさんの部屋で毛布でくるまれてたんでわかんないッスけど、たぶん」
「じゃあおあいこだ。あっ、牛乳ついでくれる?」
「うっす」
もりもりとパンを食べながら耳を傾けた黒尾の話によると、彼の家系、灰羽家はなんでも昔にどうにかして魔法生物の血が混じったことにより先天的にアニメーガスを修得して産まれてくる者が数十年だか十数年だかに一人いるらしい。
それが彼、リエーフらしいのだけど、その体質が少々面倒で、いつでも自由に擬獣化出来る反面、昨日のような満月の夜や感情のブレに左右されて暴走したりするらしい。そこんところ人狼に似てるかもしれない。
「あのっ、昨日ありがとうございました!」
「あー、もーいーって」
「けど他寮の面倒事を解決してくれるのは雛子サンが特殊だからだってクロさんが言ってたんで」
「おい黒尾言い方もっと無かったのか」
「俺じゃねえだろ」
少々引っ掛かる言い方ではあったが、礼を言ってにっと笑って小さく頭を下げた灰羽の頭をぐしゃぐしゃと撫で回してやって、彼が注いでくれた牛乳に口を付けた。
「ところで雛子サンて狼なんスよね!? 俺自分以外の動物もどき見たこと無いんスよ! 今度見してください!」
「ちょっ、わかっ、リエーフ、お口チャック!」
興奮した様子で言い出した灰羽を黙らせるために仕方無くいつ果たされるかわからない約束を取り付けてから思い出した。
黒尾も動物もどきじゃん。
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