▽嫌な予感は当たるもの 



だいたいいつも通りの定位置に、後輩2人と腕を組んで肩を組んで行く、と。

「なんでお前らが雛子サンの隣陣取ってんの? 意味わかんないんですけど」

案の定二口のアンチクショウが不機嫌な顔をしていた。
一学年下の黄金川は大きな身体でビビっていたが、流石は伊達工寮の肝っ玉女子、滑津はにっこり笑って。

「私と黄金川が予約済みだもん、青根と小原に慰めてもらったら?」

サラリと煽っていくスタイルであった。
強いなあなんて他人事のように思いながら、空のゴブレットを覗き込む。
宴が始まるにはまだ少し、余裕があるらしい。

「ちょっと滑津、面倒くさいものを押し付けないで」
「小原おまえ」
「黄金川が可哀想でしょ威嚇するなよ二口」

小原にすらバッサリ切り捨てられた二口に、畳み掛けるように溜息をつくと、矛先がこちらに向けられたらしい。
じとりとした目で振り向いて不平をこぼした。

「つーか雛子さんなんでそんな黄金川と仲良ししてんすかいつの間に」
「え? なんか茂庭と黄金川が話してるとこに割り込んだりしてたから仲良くなったよ」

夏休み前、クイディッチのあれこれで、2人はちょくちょく話をしていた。実際は陸奥が茂庭と居たところに黄金川が来たりなんてこともままあったが、2人の会話に割り込んで行ったのは全面的に陸奥の方なので表現としては間違ってないだろう。

おっそいなぁ、なんて思っていたら漸く職員席が埋まった。

「伊達工寮、騒がしいぞ。全く……5点減点だな」

一番最後に入ってきたかと思えば、ジロッとこちらを睨んで教務主任が言い放った。何かと問題児揃いの寮、見栄っ張りな教務主任の目の敵にされているわけである。問題児のブラックリストまで持ち歩いてるなんて噂もあるくらいだ。

「どうせ点数は茂庭と青根がなんとかしてくれるしよ、卒業までにはあの主任のヅラ吹っ飛ばしてえよな……」
「わかる。嶋田さんとこ相談行ってみっか?」
「馬鹿ねー、変に怒られると損じゃない。卒業してあと城から出るだけって時に仕掛けんのよそういうのは」

笹谷と鎌先と顔を付き合わせてヒソヒソと不穏な話し合いをしていると、漏れなく三人とも茂庭に叩かれた(「せめてこんなところでそんなこと話すな!」と小声で怒られた)。
そうして、ようやく晩餐会が始まるかと思えば。

「えー、今日から2週間程だが、恐らくみんなも良く知る名ゲストが滞在することになった。なんでも本人たっての希望ということなので、諸君、くれぐれも粗相の無いように」

なんて勿体ぶった言葉に、内心「粗相が有るのはあんたの頭だ」とボヤきながら、もはや教員席の方を見ることなく、騒つく食堂内よりも未だ空のゴブレットや大皿を恨めし気に眺める。

が。

「クイディッチアジアチームの代表選手、牛島若利くんだ」

名ゲストとやらの紹介の言葉に、全力で顔を歪めた。

食堂のあちこちが騒めいて、教務主任の「ぜひ好きなところで食べてくれ」なんて言葉にもっと騒つく。
はい、と静かな声と踏み出した足音に嘘みたいに静まって、一身に注目を浴びているのだろうゲストは、カツン、と。

「隣、空けてもらえるか」
「……黄金川、避けてやって。ごめんね舞ちゃん、ちょっと詰めるね」
「……雛子、」
「話し掛けないで。どうっ、しても話したいことがあるなら明日の朝聞いてやるから。晩餐中は黙って食べな」

迷わずまっすぐ、私の方へとやって来た。


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