▽今年はやたらと縁がある 
 


魔法薬学、テーマは自由、内容の充実度によって評価する、レポート一巻。
薬草学、毒を薬にする利用法についてのレポート、最低50センチ。
闇の魔術に対する防衛術、教科書後半に目を通しておくように。
天文学、天球儀の作成。
変身術、擬態させたものを見破る方法、見破られない擬態のさせ方、いずれかについてレポート1メートル。

「……腱鞘炎になるっつの」

夏休み課題のメモを取った羊皮紙の切れっぱしを、思わず放り投げた。
天文学の課題は特に見ない振りをした。
なんだ天球儀作成って。できねえよ。

と、口汚く内心ボヤいては見るものの、ここは自室。放り投げた切れっぱしを代わりに拾って渡してくれる者はなく、虚しくはあるが自分で拾って羊皮紙の束の中に突っ込んだ。

今日はやらない、余裕はあるから大丈夫だと、夏休みの学生にありがちな自己完結をして部屋を出た。
課題をやらないと決めたからには、暇になってしまったのだ。

「……とは言えマジでやることねえな」

友人達は誰も彼も競技場だ。
軽はずみな発言をした自分を恨みたいところだが、幼馴染みが同じ学校に通っていると知った今、多分一人で実家に戻っていても同じだったろう。

「暇だ、なーあ……あ?」
「……あっ、木兎の彼女だ」
「違います」

部屋を出て寮を出て、一階の渡り廊下をぶらついていると、ガサッと、何故か垣根を割って出て来たふわふわ茶髪の男子。
梟谷グループの誰かだったな、と言うのは覚えているのだけど多分喋ったのは初めてだ。向こうもその自覚はあったらしく自己紹介をしてくれた。森然のチームのキャプテンだそうだ。

「赤葦に乗り換えたんだっけ?」
「ねえそれワザとでしょ」
「おう、まあな」
「……なんでまたそんなとこから?」

あの交流会の時の件が、あの時に赤葦を迎えに来た彼らから、大変不名誉な形でどうやらグループ内に広まっているらしい。
冗談を面白がって広めているのだから質の悪いことだ、と、これ以上触れずに訊ねてみると。

「いやあ、俺らのチーム今休憩でよ。広くて面白かったから歩き回ったら見事に迷っちまって競技場わかんなくなったんだよな」

姿現しも出来ないし、誰か捕まえようにも人が少なくて全然いねえし。校内入ったら先生か誰か会えるかなと思ってさ。

……だ、そうだ。

「……校内入らなくて良かったね。多分余計迷うよ」
「マジか命拾いしたわ」

これはもしかしなくても私が競技場まで連れて行くフラグだ。
ううん、と少し唸って、現在の練習風景を訊ねてみた。
スニッチは出さず、競技場を使用しているのは生川と梟谷らしい。軽いゲームならいつでも見れるから、と抜けてきたのだそう。成る程納得。

だが、それはつまり私の事情を知っているやつは殆ど全員が観覧席に居ると言うことだ。
またなにかしらの小言を食らいかねない気がする、が。彼をこのまま見捨てるわけにも行かないし。

「……まあ、いいか。競技場、こっちだよ」

遠回りが面倒だったので、たった今彼が現れた垣根の隙間を超えて外に出た。


 
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