▽初日からどういう事なの 
 


私は寝る前、窓を開けてぼうっと夜空を眺める癖がある。
面倒な副寮長という立場だが、それ故に貰えた一人部屋はありがたくこの癖に貢献していた。

さて、本日入学式の興奮醒めやらぬ夜。満月がきれいだなあなんてぼんやりしていたら、忙しない羽ばたきの音にハッとした瞬間、バサバサと黒い梟が飛び込んできた。
嘴には羊皮紙の切れ端のようなもの。
梟の飼い主を脳内で特定出来た瞬間嫌な予感がして、ぐいぐいと押し付けられる羊皮紙を見てそれは確信に変わった。

"こんな事頼めんのお前しか居ないんだわ。森の広場前にすぐ来てくれ"

一体どんな面倒に巻き込むつもりだと思いながら、杖を握ってローブを羽織り、箒に跨がって窓から飛んだ。

「黒尾! ……っておわあああなにこれ!? 何事!?」
「うおっ、来たか陸奥!」
「なに!? ライオン!? 銀!? は!? 魔法生物!?」
「だったら良かったよ! うちの一年なんだよこれ!」
「はぁ!?」
「なんか灰羽家とかいう動物もどきの家系なんだよ!」

猛々しい咆哮を上げて黒尾の魔法に抗う銀色の毛並みの、大きな多分ライオン。
私しか頼めないってこれかよふざけんなよ女子に頼むことじゃねえだろ今度バタービール目一杯奢らせよう、と、勝手に決めて、上体を前に倒してライオンの方に駆ける。
両手が地面に付く頃には、私の姿は狼に変わっていた。

「マジ頼むぞ陸奥ー……お前しか頼りになんねーんだから」

アニメーガスは授業自体は私達三年は既に履修済みだが、修得できているのは半分もいないだろう。その半分もいない中に居るのが私なわけだが、実は黒尾もだ。
ただこいつ、普通にデカいくせに、アニメーガスだと可愛らしい黒猫になってしまう。変化の動物が選べない洗礼をものの見事に受けたわけだ。

しばらく、私は馬鹿デカいライオンとガチ喧嘩の後、勝利を収めて変化を解き、地面に横たわる男子を見やる。
銀の毛並みは彼自身の色だったようだ。明るい満月の光が降り注いで、きらきらと光っている。あまりに見慣れない綺麗なものだったので、不覚にもときめきそうになったとき、彼がぶえっくしゅんと盛大なくしゃみをした。

……アッ、こいつ全裸じゃん。

「助かったわ……おつかれ」
「黒尾、ローブ! 風邪引く!」
「ん、ああ、そうか。めんどくせえな俺が寮まで持って帰んのかこれ」
「あったり前でしょ」

どっこらせ、なんていいながら彼を抱えようとする黒尾を後目に私も箒に跨がる。

動物もどきの灰羽家の一年、しかもライオン。なるほど音駒寮に相応しい一年だなあなんて思いながら飛んだ。

ああ、私これ、明日寝坊で遅刻しそうだわ。


 
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