▽Good-bye longvacation
始業式前日の夕食後の事だった。
寮に戻るときに急に肩を捕まれて、勢い良くぐりんと振り向くと。
「ちょっとなにすんっ……英じゃん。マジでなにすんのよ」
「釘差しとこうと思って」
「え、なんの?」
寮に戻ろうと食堂を出て行く生徒達の邪魔をしながら、幼馴染みの言葉に首を傾げると。
いつもどおりの淡々とした顔で、「お前まだ帰るなよ」……?
えっなんでもう荷物も纏めたんだけど、と抗議した私の声を遮って。
「約束、したよな?」
「……ウィッス」
した。確かに、私が言った。「今年の夏は一緒に帰ろうね」って、言いました。
悲しいかな、私には特にマグルの友人が居るわけでもないので、実家に戻ったところで約束なんかがあるわけでもないから、日にちをズラした所で支障もない。
結局、寮に戻る前に梟小屋で黒尾の梟を借りて、おじさん宛ての手紙を出した。
と、言うのが昨日の話だ。
どうせ自寮にも他寮にもついでに今年特別に来たゲストだってクイディッチの知り合いは居るのだから退屈はしないだろうし。
そう思って、纏めきった荷物を数日分、解いたのだけど。
「え、陸奥、残るのか?」
「えっ、うん残るよ。追分先生も陸奥ならいいだろうってさらさらっと許可くれたし……なんで?」
たまたま食堂で会った菅原がやけに驚いた顔をしたのに頷く。
首を傾げれば、いまだ驚いた顔のまま、ゆるゆる首を振って。
「いや、わざわざ夏休み削るなんて自殺行為だな、と」
「えー、そんなに言うほどかな……?」
夏休みを削ると言っても、レポート系の課題なら実家に戻る前に学校でも片付けられるし、梟谷グループの滞在はあと二週間程度だ。
それが終われば私達も実家に戻り、後期が始まる10月1日に学校に来ればいい。
だと言うのに、何故そんなに休みの心配をするのかと思ったら、妙に合点がいったように菅原は一人で頷いた。
「陸奥、お前忘れてんだろ?」
「え、なにが……?」
「俺らは他より一週間早く学校戻ってきて、天体観測合宿あんべ?」
「……あ゙っ」
忘れてました、完全に。
[ 48/61 ]