▽苦労してるんだなあ…… 
 


ひとしきり勝手に騒いでいたリエーフを放置して、呼ばれた通りに研磨に近付く。
知らない顔のグレーのローブの彼を、チラリと見やると視線が噛み合い、向こうが小さく会釈した。
「どうも」と言った声に聞き覚えがあるような気がする。

「これ、今言ってた幼馴染み」
「これ扱いかよ。なに、私の話なの?」
「木兎が雛子の事、よく話してるらしいから。どんな人なのかって言われて」
「木兎が?」
「はぁ……幼馴染みがこの学校に居て、この交流会の前にもちょっと会ってくるわとか訳の分からない事言って飛び出しちゃって」

あれか。あの時の。
そうだ、この声といい口調といい、彼は。

「もしかして、君が赤葦くん?」
「ええ、俺の事、ご存知だったんですか」
「吼えメールの新しい怖さを教わったからね……」

「はぁ?」と訝しがる研磨にはこちらの話だとごまかした。
研磨は私達三人の動物もどきの件を知らないし、当然、先日木兎が侵入してきた事も知らなければ説明のしようもない。

が、赤葦は察しの悪い輩では無かったらしく。

「弧爪、この人、ちょっと借りるぞ」
「? 別に、好きにしていいよ」
「え、ちょ、おい」
「じゃあすいませんええと、雛子、さん。ちょっとこっちに」

すうっと目を細めた赤葦の言葉に、研磨は役目は終わったとばかりに、こちらには興味のなさげな顔でテーブルに並んだデザートに目を向けながら頷いた。薄情者……!

恨めしげにプリン頭を見つめるも、ずるずると引きずられるように交流会の喧騒から遠ざかり、ついに大広間の外に出た。
煌々としていた広間の外は、少し、薄暗かった。

「すいません、名前、下しか知らなかったもので」
「え? あ、ああ、うんいいよ別に、好きに呼んでくれて。ちなみに陸奥雛子と申します」
「……赤葦京治です。あの、単刀直入に訊きますが」
「うん」
「あの人、ここまでたどり着けたんですか?」
「……うん、まあ、私に飛びかかってきたよ」

そう、本当に文字通り、"飛び"かかって来た。
木兎の事だから、チームメイトの誰かにうっかり漏らしていても可笑しくない。次に彼がなんと発するかで大体判明する、が。

「はぁ……ったく、馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど……」

深々と溜め息を吐いたかと思えば、ガシガシと頭をかきむしった、だけだった。
これは、どちらとも取れないな、と逡巡させていると。

「あっ赤葦居……うわっ! 赤葦が女子連れ出してる!」
「マジで!?」
「うわマジだ!」
「……ちょっと、止めて下さい」

ぞろぞろと集まってきた揃いのグレーのローブがやんややんやと赤葦を囲んでしまった。
あまりの勢いにぽかんとしていると、矛先が此方に向いてしまって。

「あれっあんたあれじゃん、木兎の」
「あ、うん」
「やるなあ赤葦、先輩から略奪愛?」
「違います」
「ていうか略奪愛とか……私木兎の彼女じゃないんだけど!」
「幼馴染みだろ〜? 知ってるよ」

にやにやと同じ顔で笑う三人が言った。
知ってるよ、と言う言葉には妙に意味深な響きを持って私の耳に届いた。
ん、もしかして、こいつぁ……。

「黒尾含めて三人の武勇伝、聞きもしねえのに喋るからなアイツ」
「……主に口外できないタイプの事ばっかやってきたんだけどなあ」
「やべー時に話出しそうなときは止めてる」
「はっはっは、そりゃドーモ……」

いきなりすいませんでしたと呟いた赤葦にいやいやと首を振りながら、あとからきた三人も一緒に大広間に戻りながら。

改めて、どうにもならない幼馴染みの馬鹿さ加減に頭を抱えた。


 
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