▽仲良き事は美しきかなってね
明光が飛び去った窓から外を眺めながら遠くの観戦と実況を聞いていた。なんと、あの日向が岩泉を出し抜いてスニッチを掴んだそうだ。
あの危なげな飛行で及川のえげつないブラッジャーをかわし、スニッチまでも手にするとは思わなかった。
「あ」
「……っ、とと。ただいま」
「おかえり〜」
歓声を背に舞い戻った明光にへらりと笑えば、随分興奮した顔をしていた。満足する時間だったようだ。
こっちから帰んないと先生達になに言われるかわかんないからな、と悪戯っぽく笑った。確かにそうだ。
「明光くん」
「ん?」
「これ、どうしたらいいと思う?」
これ、と言いながら指先でつつくのは、例のレポート用の羊皮紙である。ちなみにばっちりまっさらだ。
三拍おいて、ちら、とこちらを見たかと思えば。
やはり悪戯っぽく唇の前に人差し指を立てて、それからそっと杖で傍らの羽ペンを叩いた。
瞬間、羽ペンはひとりでに起き上がりインクに浸かってさらさらと羊皮紙の上を滑る。
それから暫く、ぱたりと動きを止めた羽ペンに、二人顔を見合わせて笑った。
「陸奥先輩!」
「おや。どうしたの月島くん」
「しらばっくれないで下さい。あなたの仕業でしょう」
「力一杯人聞き悪いね君」
オレンジの鮮やかなクイディッチローブのまま、チームメイトから離れて駆けてきた月島は、珍しく随分焦ったような顔をしていた。
「いったいなんだって言うのさ」
「……烏が居た。うちの客席に。僕達の勝利が決まったとき、城の方に飛んでいった。あの時城にいたのは、クイディッチを観戦出来ないあなただけだ」
「……」
「あの烏は……僕の兄だ」
にや、と笑うと、やっぱり彼は悔しそうな顔をした。
「流石弟。よくわかったね。私が明光くんに教えたよ。君が、試合に出てるよって」
「なんでそんな真似を」
「彼が君のお兄さんで、君が彼の弟で、彼が君の憧れで、君が彼の誇りだからさ」
「な……ふざけないで下さい、陸奥先輩」
明光はクールだと言ったが、彼はしっかり年相応だ。
淡白なところはとことん淡白だけれど、こうして食ってかかるあたり、存外素直で可愛らしいものである。
「ふざけてないよ。君達の間に何があったかは知らないけど。少なくとも、明光くんを見れば、君が彼の誇りなのは確かだ」
「は……?」
「自慢の弟、だそうだからね」
そう笑えば、彼は面食らった顔をした。
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