▽いよいよ開幕……した。 
 


「ゴーゴーレッツゴーレッツゴー伊達工」

ひっそり、遠くに聞こえる喧騒にぽそりと呟くと、正面の茶飲み相手が苦笑した。

「今日伊達工戦だっけ?」
「いや、烏野と青城。でも一人でこうしてんのも暇なんだもん。やっぱ見るくらいはしたいかな」

めでたく試験は終了、各寮のクイディッチレギュラー達は無事、なんとか追試と補習を免れ夏休みも城内に残れる事になった。

そして今日、只今。
クイディッチシーズン解禁初戦、烏野対青城戦が繰り広げられている。

私が今居る城内の一室からは遠く離れた、競技場で。

「一人じゃないし、暇でもないだろ」
「ひゅみまひぇん」

ぐにいと頬を摘んだ男はけらけらと笑ってその手を離した。

つままれた頬をさすりながら、今日のカードを知らなかったのかとぼんやり思った。

ちなみに、クイディッチに参加することはおろか、観戦すら危ぶまれる私は最初から隔離されているのが今の状況だ。
お陰で、同級生の誰より早く就活の一部をさせられている。

(とはいえ実際は先輩と普通にお喋りしてるだけなんだけど)

じっと正面にある整った顔を見ているとなんだよ、と首を傾げられて。
ふと今更な事に気が付いた。

「陸奥?」
「……明光くんさ、弟いる?」
「ああ、うん。居る居る。今年烏野に入ったらしい」
「蛍くんでしょ?」
「おお、なにお前仲良いの?」
「いいや全然、そんな仲じゃないかな」

ちょっとだけ驚いた顔をした明光に、隠し部屋を教えてやった事を伝えれば、人の弟を悪い道に引きずり込むなよ、なんて言われてしまった。でも別に私が引きずり込んだわけじゃなくて彼が勝手にこっちの道に来ただけですし……と、言い訳しておく。

「今まで全然気付かなかったけど、月島ってどっかで聞いたと思ってたんだよね〜」
「あいつもすっかりクールになっちゃったからな」

弟の話題にはあまり乗り気ではないらしく苦笑続きなのをみると、もしかしてあまり折り合いはよくないんだろうか。

いつになく淡々とする明光も、在学中は烏野のクイディッチチームのシーカーだった。
けれど高等部に上がってから。一つ下の後輩がメキメキ頭角を現し、レギュラーから外れてしまったそうだ。

「……明光くん、知ってた?」
「ん?」
「て言うか私もさっき知ったんだけどさ。弟くん、今日ビーターとして出てるよ」
「は……っ!?」

ガタンと立ち上がって、ちょっと固まって。もにょもにょもごもごする明光に、ニヤッと笑いかけた。

それだけで察した彼も、先程までとは違う苦笑を浮かべて。

「今度埋め合わせな」
「はーい、行ってらっしゃい。先生達に見つかんないようにね〜」
「楽勝」

最後にはニヤッと笑ってブイサインをしながら、窓枠に足を掛けて外に飛んでいった。

(うーん、木兎はあしらったけどやっぱ箒無しに空飛べるの羨ましいな……)

「……さて、このレポートはどうやって埋めようかな」

先輩に就職についての話を聞いたレポート、を書く予定だった、白紙のままの羊皮紙をつまみ上げて羽ペンで頭をかいた。


 
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