▽駄目だこいつ
ぜえはあと息を切らして、ほんのちょっと、森に踏み込んだ当たり。
キョロキョロと当たりを見回しても誰もいない、と言うのを私と黒尾で確かめて。
それからようやく、小脇に抱えていた大きなワシミミズクを地面に解放してやって。
ビッ、と人差し指を突き付けた。
「いっっったい、なにをやっとるんだお前はーーーっ!!!!」
「落ち着け雛子」
どうどう、と黒尾に諫められながら肩で息をする。
ワシミミズクはバサバサと身じろいで。
「いやーっ疲れた! 流石に遠かったぜ! けどまあ楽しかったな! まさかお前が俺を抱えて走るとか予想してなかったし!」
しっかりと見覚えのある、とある男子に姿を変えた。
ケタケタと愉快そうに笑う彼に、今回ばかりは流石に黒尾も深々溜め息を吐く。
「どーせ再来週あたりに来ることになってるだろーが。なにわけわかんねーボケかましてんだよ、木兎」
「出オチもいいとこじゃないのよ……あんた自分が未登録だって自覚あんの!?」
「俺の変身は完璧だから大丈夫だ!」
「その思考回路がアウトなのよバカ……!」
「バーカ」
「なんだよ二人して! 自分達は飛べないからって僻むなよ〜」
「「ちげーよ馬鹿」」
木兎光太郎。私や黒尾と同い年で、私や黒尾と同じく、未登録の動物もどき(ワシミミズク)だ。
と、いうのも。実は私と黒尾と木兎は、昔から大人達(主にそれぞれの保護者)から悪ガキトリオと称された、いわゆる悪友である。とりあえず、あれはやるなと言われたことは影で一通りやってきた。
高校前の春休みにアニメーガスを習得したのも、つまりは三人揃っての悪戯の延長線上で、自分達だけが知っている特徴を、見紛う筈がなかったのだ。
「梟谷……そうよ、聞いたことあるはずだわ、あんたのチームだもんね」
「おう! 強えぞ!」
「いやこいつクイデッチ見れねえから」
「あっそっか!」
損な体質だなあアッハッハ、なんて朗らかに言う木兎に今更イラついたりしない。こいつはこんなやつだって知ってるからだ。
はああ、とまた何度目かわからない溜め息を吐くと、静かな羽音がして。見慣れない梟が傍らの枝に止まり、嘴にくわえた封筒を木兎の頬にぐいぐいと押し付け始めた。
「ふぐっ、ふおっ、ちょっ、なにすんだよぉぉぉ!」
「……おい木兎。お前それ」
「……吠えメールじゃね?」
「えっ、ゲッ、マジだ!」
開封すれば独りでに話し出す、赤い封筒を。
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