▽話が大きくなりすぎてる。 
 


うちの寮はバカが多くてかなわん、と魔法史の授業中に澤村がボヤくので。

「烏野も伊達工式試験勉強、やる?」
「伊達工式……? なんだ、それ」

興味を示した澤村に、たいした事じゃないよと説明する。

まず、教える側が教わる側に及第点と合格点と、二つのボーダーラインを設定する。
そして、勉強の結果、及第点を越えれば教わる側が教える側にお礼をし、それ以上、つまり合格点を越えれば教える側が教わる側にご褒美をあげるという単純なもの。

ちなみに、お礼とご褒美は予めお互いの同意の上設定しておく。

伊達工寮では、試験前になるとたいていいつもこれが談話室で繰り広げられている。
単純だか、それが実は一番効果があるのだ。

「……そんな子供騙しで本当に赤点回避出来るのか?」
「ご褒美に普段は絶対しないような、でも喜ぶことしてやって、お礼は絶対嫌がるような事やんのよ。だから私去年は二口のほっぺたにキスしてやったなあ」
「……はっ? え、お礼? ご褒美?」
「お礼。唇に悪戯リップ塗ってキスしたの」

そのリップでキスマークをつけると、最低三日(72時間)はキスマークが消えない悪戯リップである。ちなみに自分で開発した。

目を剥いてギョッとした澤村だったが、悪戯リップについて説明すると腑に落ちたように頷いた。

「……陸奥」
「ん?」
「それ、やらせてもらう。けど、俺達じゃ手に負えないかも知れないから……よかったらそっちも一緒にやってくれないか」
「ん? いいよいいよ。じゃあ今回はどっか適当に空き教室確保してやろっか」
「すまん、助かる。今日からでもいいか?」
「おっけー。そろそろ始めないと、提出課題も出て来たしねえ」

各自参加者には私達が声をかけるようにして、終業後から夕食前まで、これから二週間。
私達は一緒に勉強する事になったの、だけど。

「待ってたよー! 陸奥ちゃん!」
「よう。うちの寮のバカも頼むな」
「……すまん、いつの間にかこんな事になってた」
「……うん、まあ、いいけどさ……」

知らない内に青城にも音駒にも話が伝わっていて、教室の中は随分カラフルに大所帯になっていた。


 
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