▽それは少し昔の話
今の、あんたがやったの?
それが、国見が私に対して初めて発した言葉だった。
「……わ、たしは」
「ああ、英。庭にいたの。こちら、お隣の陸奥さんの姪御さんよ。明日からあんたと同じ小学校に通うの。案内して、色々教えてあげなさいね」
「……ふーん。わかった」
「雛子ちゃん、うちの子の英よ。歳は……雛子ちゃんの2つ下ね。お喋りな子じゃないけど、仲良くしてあげてちょうだい」
「あ……はい。ありがとうございます」
国見は初対面の時から私が"異常"な事に気付いていた。
けれど、だからといってどうというふうでもなさそうで。
破裂させてしまったバレーボールのことを謝ると、古いボールだったから、としか言われなかった。
正直、あの頃は国見がよくわからなかった。
けれど、子供なんてそんなもので、一年も一緒にいれば些細なことはどうでも良くなった。
理由なんかよりも、事実が大事なのだ。
「雛子」
「ん、なに英」
「……お前、なんで学校では他人行儀なわけ? 国見とか呼ばれっとすげえ気持ち悪い」
「いや……知ってるでしょ。私、変なことばっかおこしてるから。英、外では関わんない方がいいよ」
就学前の未熟すぎる魔法使いにはありがちな魔力を持て余した事故を、私はやはり学校でも幾つか起こしていた。
魔法族だろうとマグル族だろうと。否、言葉を持たない巨人族さえ。
異質な物は排除される。
それに彼を巻き込みたくなかった。
の、だけど。
「別に周りのことは気にしてない」
「私が気になる」
「気にしなきゃいい」
「英!」
なかなか頑固な奴だった。
それに、なかなか鋭い奴だった。
「お前、最近なんの手紙見てんだ?」
「……学校の、案内だよ。中学から通うことになる学校の」
「中学、から? ……北一じゃねえの?」
「うん。夏と冬には、帰ってくるから」
「寮? 遠いのか?」
「んー……うん。少しね」
隠していたはずの魔法学校の事にもいつの間にか感づいていたし、私がそれについて詳しく話す気が無いことにも、気付いていた。
反対に、私はかなり鈍かった。自分の事で手一杯にも程があった。
中学の間は一度もそれらしいことに気付けなかったし、多分国見も国見で、私がなにも言わなかったことに対する当てつけのようなつもりだったんだろう。実に巧妙に隠されていた。
意地をはったりだとか、そんな風に当て付けたりだとか。子供っぽいところだけ、ずっと昔から知ってる、変わらないところだった。
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