▽烏野生にしては珍しい
きょとんとした少年(デカいけど後輩らしい)が、不釣り合いな程綺麗に笑った。うわっ、今気付いたけどこいつイケメンってやつだ!
絶対ろくな事言わないのに笑顔が輝いてる!
「副寮長の先輩が、校内の隠し部屋に出入りしてるなんて、聞こえが悪いですね」
「……なにが望みかな、少年」
校則にしっかり明記してある。
校内の、普段解放されていないようなところには許可無しに出入りしてはならない……つまり、隠し部屋が五万とある城内だが、それを探したりましてや出入り、使用したりしてはいけないのだ。
話が早くて助かりますねと彼は更に笑った。
「僕にもどこか一つ、教えて下さい。談話室はうるさくて……。ああ、先輩はご友人が多そうですから、出来れば先輩以外にあまり知らないだろうような部屋を」
「……はいよ。んー……じゃあ、こっちだな」
まったく見た目通り、賢い子だ。
彼の言い分からして、普段普通は人の居ない鐘楼なんかに居たのも、一人になる為だったんだろう。
鐘楼を降りて、反対側の天文台の方へ上がる。
「んーと……この辺……」
「……なにもありませんが」
「あっ、あったあった。これ、この壁のシミわかる?」
「はあ」
「ここをね、こうするの」
うすらと見える壁のシミを指先でさわさわとくすぐる。
5秒ほどそうしていると、まるで壁のシミがたまらず身をよじって笑うようにぐにゃりと歪み、見る見るうちに取っ手が現れた。
「これ、このまま手前に引けばいいから。一回開いて閉まったら取っ手は勝手に消えるからね」
「……ほんとに、色んな隠し部屋をご存知なんですね、陸奥先輩」
「ま、伊達工寮生の特色だと思ってよ」
呆れたような声色の言葉ををけたけたと笑い飛ばした。
隠し部屋の扉の向こうに彼が消える間際、名前を聞いた。
また何かあったらよろしくお願いしますね、なんて台詞と一緒に、不釣り合いなくらいの爽やかな笑みで。
「うーん……侮れないな、月島蛍」
まっさらなただの壁に戻った扉を見つめながら、しみじみ呟いた。
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