▽全面的に迂闊でした 
 


穴の奥、三畳の部屋。
しっかり畳で、穴の正面には色紙が飾られていて、杖でつつけば、墨が滲んで陸奥雛子と表示されて。

「準備完了、だな」
「あ? クロじゃん居たの?」
「俺も来たばっか」

笑いながらトン、と黒尾も同じように杖で色紙を叩き、陸奥の名前の下に黒尾鉄郎、と墨が滲んだ。

それから陸奥が抱えていたチョコレートパイを一つ取った。

「クロが寮長とか笑えるよね」
「お前も副寮長ってガラじゃねえよ」
「つかクロはなんで籠もりに来たの?」
「あー、お前そろそろ来るかなと思ってよお」

ほれと渡された封筒に、首を傾げた。

「なにこれ」
「家に届いたお前宛ての手紙」
「はぁ? 私学校に居るのに?」

私の実家は当然の事、マグルだらけのマグルの住宅地にある。
だから、魔法族関連の郵便はクロの家に送って貰っていて、後日、マグルに興味津々の研磨のお父さんがマグルの方法で郵送してくれるようになっている。
ただし、それは私が実家にいるときの話。
魔法学校に居る私宛の郵便で、なぜそんな回りくどい真似をしたのだろう。

受け取った手紙を裏返して差出人を確かめて、しっかりと押された花押に嫌でも理解して。直ぐに目を通す気にはならなくて、ローブのポケットに押し込んだ。

「まあいいわ。それよりさあ、あんた明日暇?」
「多分な。俺ら競技場使うの明後日だし。なんで?」
「じゃあスガと花巻達誘って嶋田マート行こうよ。1ヶ月たったけど、寮の隔て無しに改めて一年生の歓迎会。マグルの子達とかはまだ結構ギクシャクしてんじゃないかな」
「あー、まあなあ。それは言えてる。俺はいいけど、場所とかどうすんだよ」
「武ちゃん言いくるめればオッケー。あの人マグル出身の先生だし情に訴えればチョロいチョロい」

口は悪いけどこれでもちゃんと尊敬してるよ。優しくていい先生だし。

上手くやればまた加点してくれるかな、と邪な事を考えながら。
他の三年に声掛けとくわと出て行く黒尾を見送って、しばらく一人でお茶会を楽しんだ後。

ごそごそと穴から這い出ると。

「……」
「…………やあ。ご機嫌麗しゅう、少年」
「……伊達工寮の副寮長の、陸奥雛子先輩でしたっけ」

柔らかそうな色素の薄い髪に眼鏡を掛けた、真面目そうな長身の烏野生とうっかりはち合わせてしまった。


 
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