▽言い張れば嘘も真 
 


新学期早々宿題が出たと談話室で羊皮紙を引っくり返して喚いていたのは、毎度のことながら鎌先だった。
時刻は既に日付が変わる頃だ。
そろそろ談話室から人が捌けても良い頃合いではあるが、首席バッジを暖炉の光に照らされながら雑誌を読んでいる笹谷にも、監督生バッジを同じように光らせている青根にもそうさせる気はなかった。
笹谷には単にその気が無く、青根は年長者である鎌先に少々遠慮しているのだ。

広い談話室には、鎌先、笹谷、青根、二口、そして陸奥がいた。
二口と陸奥は鎌先の悲鳴にケタケタ笑いながらかぼちゃジュースを飲んでいた。

「あーっもーっ、羊皮紙一巻もレポート書けるかよ!」
「うわっ、そりゃ鎌ちには無謀だな……なんのレポート?」
「マグル学! 笹谷か陸奥とってねえのかよ?」
「あー、俺その時間数占い学やってるわ」
「私も同じ時間に天文学取ってるー。ってか私マグル出身なんだから、マグル学とる訳ないじゃん!」

退屈で眠っちゃうよ、なんて笑う。
鎌先も、それもそうだなあなんて嘆きながら範囲らしい教科書のページを開いて唸っていた。

かぼちゃジュースの入っていたグラスを空にして、私先に寝ちゃうから、と陸奥は副寮長室と真鍮で書かれた扉の向こうに引き上げた。

それを横目で見送った笹谷が、お前らもそろそろ寮に戻れよと青根と二口に言った。
ブンッと勢い良く頷いた青根が、二口を引きずって男子寮の扉の奥に引っ込んだのを、やはり横目で確認して、先程からページの進んでいなかった雑誌をぱたんと閉じた。

「お前さあ、いきなり地雷踏むのやめてくれない?」
「……ワリ。わざとじゃねえんだけど」
「鎌ちがわざとやるなんて思ってねーよ。ただ茂庭がいたらカワイソーなくらいオロオロしただろうけど?」

その様子を思い浮かべたのか、クスクスと笹谷は喉の奥で笑った。
中等部からの付き合いであるが、未だにコイツのこういうところはわからないものだと鎌先は訝しげな顔をしたが、全く気にしていないらしく、襟元から外したバッジを弄んでいる。

―――陸奥雛子。伊達工寮所属、副寮長。
成績は寮内次席、得意科目は闇の魔術に対する防衛術、飛行術。
本人曰く苦手な科目はなく、強いてあげるならばブラッジャーに追い回されるという不可思議な特異体質の所為か、クイディッチが苦手。
顔は広く、寮の隔てなく友人がおり、後輩にもよく慕われる。
様々な分野にて好成績を残す優秀な魔女でありながら出身はマグルである。

「……どこまでが、本当だろうな」

笹谷は呟いて、バッジを指先で弾いた。

鎌先は、彼が放り出した雑誌の表示、けばけばしく動く「幻の旧家の謎に迫る」という文字を睨みつけながら、さあなと唸るように返すのが精一杯だった。


 
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