▽見せ物じゃねーぞ 
 


私に都合を完全に合わせろとは言った物の、一年生の授業時間中を指定するなんてそんなかわいそうなことをするつもりはない。
金曜の午後、一年生は授業が無いはずだし、私も先生の都合により休講になったから時間がある。

「ずんだ〜」

フクロウ小屋の前でそう呼び掛けると、格子の隙間から小さなコノハズクが勢い良く飛び出してきた。
何を隠そうこのコノハズクが陸奥に郵便を届けてくれるフクロウであり、「ずんだ」という名前なのである。ちなみに雄だ。
陸奥の肩に止まったずんだは、カチカチと嘴を鳴らし、差し出された陸奥の指を甘噛みした。

「ずんだ、これ影山に渡してきてくれる? そしたら今朝あんたが届けてくれたずんだ餅食べさせてあげるから」

任せろと言うようにまた甘噛みして、カチカチと鳴らす嘴で差し出された羊皮紙の切れっぱしをくわえて飛び去った。
全く誰ににたやら、食い意地のはった奴だとその後ろ姿を見送って。
彼女は一人、そのままの足で職員室を目指した。

そこに、烏野の寮監である武田しか居なかったのは幸いだった。彼の寮の一年、新人ビーターに飛行術の教えを乞われたので競技場、箒使用の許可をくれるように頼んだ。
案の定、感激屋の彼は「他寮の後輩の面倒をこんなに快く引き受けてくれるなんて」、と軽々サインをくれたばかりか、ついでに五点貰った。やったね。

そんなわけで現在、陸奥は箒に跨がって影山を待って居るわけだが。

「なあんで、あんたもいるわけ?」
「いやー、陸奥ちゃんがトビオに飛行訓練するって風の噂で聞いたから俺もご相伴に預かろうかなって!」
「今すぐ西塔の談話室に帰れよ及川」
「いーや」

語尾に星かハートをふんだんにつけそうな口調の及川に正直苛立ちを隠せない。
及川の所為で観覧席には女の子がひしめいているし、その女の子達が噂を走らせてくれたお陰で。

「俺もいいッスよね、雛子サン!」
「……もー、好きにしてよ」

にんまり笑う二口までがこの場にいる。
オレンジの幕が掛かる烏野の観覧席に澤村と菅原、東峰がせっせと上がってきて、ごめんな、ホントにすまん、わざわざありがとうなあなんて三者三様の言葉を寄越した。

いつの間にやら(及川が殆ど原因だが)大事になってしまった飛行訓練に、最後に到着した影山の表情は大いに歪んだのだった。


 
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テーマ「人外ファンタジー」
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