▽私だって静かに過ごしたい 
 


バンバンと喧しい音を立てるノックに陸奥は飛び起きた。
時計を確認する。まだ6時じゃないか。今日は日曜日、休みの日には8時まで寝ていたい陸奥である。
伊達工寮には中等部からの友人も多いので、そんな些細な習慣も知っているはずなのに。

しかもどうやら扉の向こうで騒いでいるのは鎌先と二口だ。
ガチャガチャとノブを捻り回しているが、悪いが物理的な鍵以外にも魔法でロックしている。が、相手が脳筋鎌先ならば物理的に破られるのも時間の問題かと諦めて起き上がり、ガウンを引っ掛けた。

「朝っぱらからうるさいわね。なんなの? 下らないことだったら鎌ちの腹筋20個くらいにしてやるから」
「やべえそれ超見てみたい!! でも雛子さん、マジで俺達にもワケわかんねーんですよ!」
「おい陸奥、腹筋て20個に割れんのか、マジで出来んのか?」
「ごめん鎌ちちょっと黙って」

ひいひいと笑い転げる二口に事情を尋ねる。ぶふっ、と吹き出しながらも、「雛子さんに客が来てんスけどね」と震える声で告げた。

そう言えば今日はうちが競技場を予約していたんだったかと、二人がクイディッチ用のグリーンの揃いのローブを着ているのを見てぼんやり思い出した。
茂庭が期待と不安を交えた声で言っていたから、それは確かな情報の筈だなと思う。

ボールを借りてくる青根を待つついでに一足先に競技場に行こうと二人が出入り口である肖像画を開いたら、どうやら客人はそこに居たらしい。
鎌先が余りに勢い良く開くのでゴツンと酷い音がして、肖像画のマダムに酷く文句を言われたそうだ。

で、そこにいたのは。

「……おはようございます、陸奥さん」
「…………おはよう影山。君はどうしてこんな朝早くからうちの寮の前にいたのかね」
「陸奥さんが寮から出て来たらすぐ捕まえられるようにと思って」
「ほう……ではなぜ私を捕まえようと思ったのかね」

問いかけたものの、陸奥は影山の答えなどわかりきっていた。案の定、飛行技術の指導をしてもらいたくて、だった。
これしか頭にないのか。無さそうだ。

談話室で影山の話を聞いてやると、(何故か競技場へ行かずに)陸奥の両隣を陣取っていた鎌先と二口の表情も渋いものに変わり、二口ががしがしと明るい茶髪の後ろ頭をかきむしりながら、つまりさ、と鋭く声を上げた。
(あー、機嫌、悪いなこれ)

「なんだっけ、烏野の影山クン? はさ、雛子さんの飛行技術がすげーから、ぜひご教授賜りたいわけだ」
「え……? あ、ハイ……???」
「難しい事言ってんじゃねーよみたいな顔してんなよお前、頭は鎌先さんと同じレベルかよ。だからぁ、この人に教わりてえんだろ?」
「あぁ、はい。そうです」
「ぜってー駄目」
「……は?」

にっこり笑った二口に、ああこの二人相性最悪だなと今更ながらに思った。
それは鎌先ですら感じ取ったらしい。
ピリピリと火花が散りそうな二人の冷たい視線が行き交う中、陸奥と鎌先は顔を見合わせて小さく溜め息を吐く。

二口堅治の持つ世界は存外、閉鎖的であった。

「なんでわざわざ烏野チームの利益になるような事してやんなきゃいけねえの? 意味分かんねえだろ。自分の先輩に教わればいいだろ」
「うちの先輩達と陸奥さんが持っている技術は違うものです。だから俺は」
「雛子さんがすげーのは知ってるっつーの。で? なんでそれをわざわざ他寮のお前が追い回してくるんだよ。んな義理ねえだろ」
「……っ、けど、日向は」
「あー、もー、わかったよ。めんどいから喧嘩しないで」

ピリピリする二人の言葉の応酬に割ってはいる。
険しい顔の影山と二口が同時に陸奥の方を見るので、彼女はなんとか影山を説得し(完全に陸奥に予定を合わせる条件のもとに一度だけ練習を見てやる約束をした)、談話室から外に出した。

そして、それを見てすっかり頬を膨らして口を尖らせた二口に向き直る。

「おとなげないよ全く」
「……雛子さんが烏野のチビに……他人に指導したとか初耳なんスけど?」
「なに拗ねてんのよ」
「……だって」

うちの先輩なのに。だいたい俺にもそんなことしてくれたことないのに。

ブスッとした顔で、もごもごとそう言った。その顔はほんのり赤い。
全く、普段は小憎たらしいのに、唐突にこんな反応をしたりするから。
だから、私は結局この生意気な後輩を最終的には可愛がるしか選択肢がない。

腕を伸ばして、自分より高い位置の頭をわしゃわしゃと撫で回してやりながら、仕方ないからいつでも付き合ってあげるよ、と言ってやった。


 
[ 10/61 ]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -