しばらく(及川が微妙な気分で)そんな空気のまま、なんやかんやですっかり昼食まですませてしまった頃。私もお手洗い行ってくるね、と蔵元が席を外した時。
「……あの、及川さん」
「あー……なにかな、円チャン」
威嚇するような目つきの烏丸に答えると、わざとらしくぶるりと肩を震わせた。(「うわっ」という声をしっかり聞いた)
「瑞姫ちゃんのいない間にお伺いしますけど、及川さんて瑞姫ちゃんのどこが好きなんですか? 顔?」
「……ん、まあ、顔も好きだけどね」
段々慣れてきたのか絆されたか、烏丸の敵意剥き出しの態度が可愛らしいものに思えてきたようで。
身内が美人だと、心配にもなるものかなあなんて思いながら、ふざけると間違い無く分が悪いので。
「……最初に気になったのは似てるなって思ったからかな。実際一緒に居るのは楽だったし。真摯なとこを単純に凄いなあって思ったり、まあ一緒に居るのが落ち着くって言うのが一番カモね。えーと、これでいい?」
「……ふうーん? そう、ですか。へええ」
難しそうな顔でぶつぶつとなにやら呟いて。
それに首を傾げていると蔵元が戻ってきて、そして。
「瑞姫ちゃん、お邪魔しちゃってごめんね? 噂の及川さんにも挨拶出来たし、私おばさんにちゃんと挨拶しなくっちゃ」
「えっ? 一人でうちに? 大丈夫?」
「ダーイジョーブ! それじゃあ及川さん、仕方ないからこのくらいにしておいてあげますね!」
朗らかな笑顔で小憎たらしいセリフを吐きながら、彼女は颯爽とカフェを出て行った。
それを二人でぽかんと見送って。
「……及川、円ちゃんになに言ったの?」
「えっ……別に、なにも言ってないけど……」
むしろ、及川の方が一体彼女に自分の何を聞かせていたのかと問い質したいところであったが、生憎混乱する頭にそんな考えは浮かばず仕舞いで。
更に、この夜、先程の話を一言一句漏らさずに蔵元にリークされる羽目になることなど、今の及川は知る由もないのであった。
answer‐及第点?
(台風のような子だったな……)←