それはなにもかもが突然だった。
緑間と高尾の、異性でありながら無二の親友である烏丸からの、
「あんたたち明日暇?」
というlineに、
「ていうか部活無いから暇でしょ。ちょっと出掛けるから付き合ってよ」
という少々強引な誘いから始まり。
待ち合わせの場所に行くと、二人の知らない女子(美人)が居て。
「瑞姫ちゃん、この二人だよ! こっちのデカい眼鏡が緑間で、こっちのデコが高尾!」
「紹介の仕方雑すぎだろお前。いや、えっ? っつーかさ」
「……一体どちら様なのだよ」
「えっ、円ちゃん、なにも言わなかったの? ……突然ごめんなさい、私、蔵元瑞姫って言います」
「私の従姉妹! 可愛いっしょ? 美人っしょ?」
にしし、としたり顔で笑う烏丸に、危うくも高尾は「そうだな二次元みたいだな」と言いかけてすんでのところで飲み込んだ。
宮城に住んでて、東京を案内しに呼んだんだ、と言った烏丸の言い分はわかった。が、何故二人がその案内役の連れに抜擢されたのかがわからない。
こいつを理解したつもりでいた俺が馬鹿だったのだよ、とぼそりと緑間が呟いたのが高尾の耳にしっかり届いていた。
「……おい、真ちゃん」
「なんなのだよ」
「死んでもボロを出すなよ」
「……わかっているのだよ」
画して、二人の、二人しか知らない、二人の為の戦いが静かに開始された。
が、それは中々に厳しかった。
例えば、秋葉原では、
「すごーい……アキバってほんとにこんな感じなんだ……都市伝説かと思ってた」
「まっさかー、毎日こんな感じよ! ね?」
「そッスよー、色々安いんで俺もよく来ますけど。連休とかだともっとすごいッスよ。客も客引きも」
「ふうん……高尾くんは、なにがお目当てで来るの?」
「俺はまあ、DVDBOXとか」
「へえ、BOXで買うんだ? どんなのが好きなの?」
「やっぱりニチいってえ!!」
「ああ、すまん。足元を見ていなかったのだよ」
「お、おう、気にすんな真ちゃん……。あー、深夜のバラエティーッスかね……その、見たくてもリアルタイムで見れないんで」
「そっか、二人ともバスケ部のレギュラーなんだものね」
と、高尾が危なく現役ニチアサキッズなのを暴露しかけたり。
昼食に入ったファストフード店では、
「駅の近くにはまああるんだけど、こんなに短距離に密集して色んなお店……っていうか、同じチェーン店が並んでるなんて不思議な感じだわ」
「まあ、確かに。私も時々こんなに店いらねえって思うときはあるよ」
「だがコンビニが多いのは便利なのだよ。一店舗で集中してクジを引いたりしなくてすむ゙っ!?」
「ごめーん真ちゃん。まっさかこんなとこまでお前の脚あるなんて思わなくてさあ」
「あ……脚が長くて悪かったな……」
「……クジ?」
「あ、ああ、俺は妹がいるので……子供用の、クジをたまに」
「ああ、成る程。緑間くん、優しいお兄さんだね」
「いえ、そんな事は」
と、こちらも危うく口を滑らせそうになった。
それもこれも普段はなんでも開けっぴろげに話が出来る烏丸が居る所為である。
気を抜くとついついいつものように振る舞いそうになってしまう。
笑い声に草を生やしていないだけ二人はかなり踏ん張っていると言えなくもないのだが。
まあそんな調子で、アハハハ、なんて乾いた笑い方をする二人を、朝からずっと烏丸が訝しげに見ていたが、ついに視線だけだったそれが言葉になった。
「あんたたち、今日変じゃない?」
「えー? どこが!」
「いつも通りなのだよ」
「いや、なんかキモい。て言うかいつものキモさがなくてキモい」
「円ちゃんたら、そんな事言わないの」
「だってさあ瑞姫ちゃん。前から言ってるけど、コイツら私と同じ人種よ?」
烏丸の言葉に、二人はピシリと固まってしまった。