「天才」

 


俺なんて足下にも及ばないくらいの才能を持っているんだろう、と知ったのは、俺が真面目に部活をやらなくなった頃。
みんなが変わってどっかいっちゃって、たぶん俺も変わって……というか、前に戻ったような、そんな頃。

彼女は俺と同じ補習常連組だった。

なんとなく先生達も扱いづらそうにしていたけど、彼女はいつもぼうっとしていて、近くに居るだけで脱力感が伝染しそうだった。
そんな、彼女が。

「ねえ、黄瀬くん」

俺に初めて話しかけてきたのが、何度目かの補習の後。
たまたま隣の席になって、だらだらと荷物を片付ける俺の隣でゆったりと荷物を片付けながら。

「……なんスか? 赤司サン」
「征十郎は、どう?」

ちらりとこちらに向けた流し目にどきりとした。
彼と、同じ目だ。

「……俺、最近あんまり部活行ってないから」
「そう……なら、いいわ」

ありがとう、と言って彼女は帰って行った。

―――実は、話しかけられたのは初めてだったが、話すのは初めてではない。
俺の方から話し掛けた事が前にあった。興味があったのだ。赤司征十郎の姉の、赤司征華という人間に。
弟について訊ねれば、彼女は必ず「私は征十郎と違って、出来損ないだから」と言ったのだ。

けれど。
俺の答えだけで多分征華は確信した。弟が変わってしまったことに。
彼女は出来損ないじゃない。いつも纏っている倦怠感のようなものは、俺が抱いているのと似ているようなもので。

赤司征華は、"出来損なりたかった"のでは無いだろうか。
でも彼女は"出来損なれなかった"し、弟は彼女を越えられなかった。

今自分は、かなわない人もいる。だけど、それでもこんなに虚しいのに、一体彼女はどのくらいの虚ろを、抱えているんだろう。

気付いたからには、そんな風に思わずには、居られなかった。


 
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