「素直」

 


時折彼は気紛れだった。気紛れに見せかけた何かの布石かと勘ぐったこともあったし、実際そのような事もあったけど。
だけど、それ以上に、彼女は気紛れだった。

とりあえず、僕にコンタクトを取るときは、いつも。

「相変わらず、上手いタイミングで現れますね」
「あら、青峰くんや黄瀬くんに見つかるわけにもいかないでしょ?」
「……僕は、構わないんですか?」

純粋に不思議な発言だった。

初めて会ったときはたぶん、あまりの衝撃にそこまで思考が回らなかったが。
落ちこぼれと聞いてはばからなかった彼女が、まるで自分の相棒のように。手元も見ずに、ついでにフォームも何もない所作で、"ただ放った"、だけのボールはリングに触れることなくゴールをくぐった。
そうして彼女は振り向いて、不敵に笑った。「誰にも、特に、征十郎には秘密にしてね」と茶目っ気たっぷりに、唇の前に人差し指を立てて。

瞬間的に理解した。
彼女が噂に聞く彼の片割れで、それから噂なんて到底宛にならないらしい。

また今日も彼女はボールをただ放って、リングに触れさせずにネットを潜らせた。

「構わないから、黒子くんの前では遊んでるんだけどな」
「遊んで……ですか。……どうして、僕が?」
「……まあ、バレちゃったのは偶然よ。でも、君は口が堅そうだし、顔にも出にくそうだし」
「だから、ですか?」
「そうよ。信じられない?」
「まあ、あんまり」

自分よりも才能に溢れた人を見れば、誰もが羨望、嫉妬するものだ。しかし、あまりにも才能に溢れすぎた相手に対しては、そんな気も起こらずにただただ感服するだけだ、と、そうそう体験できないことを征華に学んだ。

「征華さん」
「なあに?」

それから存外、

「征華さんは、バスケは好きなんですか?」
「あら、意外な質問ね。好きよ。楽しいみたいだから」
「……そうですか」

彼女の世界というのは、どうやら彼中心に回っているらしい。


 
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