「完全無欠」

 


姉は幼い頃から出来損ないだった。そう言われてきた。
だけど、俺はあの人ほど完璧な人は見たことがないし、彼女がそう言われる度に自分がそうであるように思った。

赤司家の長男で、父の跡を継ぐ、この俺が。出来損ないだと。

姉を貶めようとする者達は誰もが、知らず知らずに俺を貶める。
あの人が居るから、あの人が居なければ。
そう思わないでも無いのに、それでも俺はあの人を疎ましくは思わなかった。

「姉さん」
「あら、どうしたの征十郎」
「今日は趣向を変えて、囲碁を一局、どうですか?」
「いいわよ。遊びだもの」

彼女が相手をしてくれるときはいつも、必ずそう言った。

そうしていつも、いつも。

「参りました」

そう言うのは姉の方。

いつも、いつも序盤は姉が圧している。どんなゲームでも。
だけど中盤で知らず知らずのうちに拮抗状態になり、終盤では必ず俺が勝つ。

それは、姉によって常に定められた流れだった。

「付き合ってくれてありがとうございました」
「構わないわよ。特にやることもないから」
「先週レース編みを始めたと聞きましたが」
「うん。飽きちゃった」

ふと見たサイドテーブルの上にはいくつかのレースが放るように置かれていた。なる程"飽きちゃった"わけだ。

その中から赤い、そこそこ大きめのレースをつまみ上げて。

「これ、頂いても構いませんか」
「いいわよ。どれでも、征十郎の好きにして」
「じゃあこっちも頂きます」
「どうぞ」

またいらっしゃいと言った姉に頷いて部屋に戻る。
大きなレースはサイドテーブルに敷いた。うん、悪くない。

もうひとつ貰ってきた、コースター大の物は、棚の奥に押し込んでいるアルバムに挟んだ。

一番手前の写真。
二人の一番古い写真。
それには、今は居ない、母の字で。

「征華と征十郎。手を繋がないと眠らないのね」

と、一言、記されている。


 
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